憲剛さんのように車にサインをする存在に 猶本光×中村憲剛スペシャル対談【後編】

原田大輔

レッズレディースの中村憲剛になる?

川崎フロンターレの存在を認知してもらうため、選手時代はさまざまな活動を行ってきた憲剛さん。引退した今、その活動の幅はさらに広がっている 【(C)J.LEAGUE】

中村 そう言えば、WEリーグ開幕を機に、SNSを始めた選手も多いですよね。個人的には、すごく良いことだと思っています。ただ、SNSには覚悟も必要というか。サッカーは当然、勝敗のある競技なので、勝ったときだけ更新すればいいということでもないんですよね。負けたときにこそ声が聞きたいというファン・サポーターも多い。そうした覚悟を持つという意味でも、このタイミングでSNSを始めた選手が多いことは、プロとしても大きいのかなと。

――今も変わらないと思いますが、憲剛さんは選手時代、ブログを更新される前に何度も、何度も確認していたと聞きました。

中村 それだけ、自分の言葉に発信力と影響力があるということも自覚していたつもりです。それは自分だからということではなく、プロの選手としてアカウントを作った時点で、そうあるべきだと僕は考えています。自分の発言一つで、チームの状況に悪影響を及ぼす可能性もある。それを自覚すればするほど、更新ボタンを押すときには怖くなるんです。何回も見返していましたし、妻に確認してもらったときもありましたから。

猶本 それくらい気を使っていたんですね。記事も含めて、憲剛さんの言葉は伝わるというか、スッと心に入ってくる秘密を知ることができたように思います。このタイミングで自ら発信しようとSNSを始めたり、選手たちから自主的に「ポスターを配りに行こう」という話も出たりしているんです。そうした自覚もWEリーグが開幕したことによる変化だと感じています。

――WEリーグでは公式戦がないチームは、「WE ACTION DAY」として、該当チームが多様性社会の実現に向けた活動を実施しています。レッズレディースも9月25日に活動していました。

猶本 本当は地域の子どもたちと触れ合う機会を作りたかったのですが、コロナ禍ということもあり、一部の選手がオンラインでのサッカー教室を、残りの選手とスタッフで、練習場のあるレッズランド周辺の清掃活動を行いました。その際にも地域の人たちとあいさつをしたり、「ありがとう」という声を掛けてもらえたことで、活動の意味を実感する機会になりました。

中村 清掃といえば、僕自身も川崎フロンターレでは、「多摩川エコラシコ」という多摩川の清掃活動をはじめ、数え切れないほどの地域活動や社会貢献活動、イベントに参加しましたが、その際には、可視化することの重要性を感じました。ファン・サポーターや地域の人たちにとって、見える、触れ合えるという機会は、すごく大切でした。ピッチの中で見る選手たちは、確かに格好いいし、憧れの対象だと思いますが、その選手たちが自分たちと同じ場所に来て、一緒に作業することで、一気に距離を縮めることができる。直接、会話を交わす機会があれば、それこそ一度、試合を見に行こうと思ってくれるかもしれない。特に僕が加入した当初のフロンターレは、放っておいてファン・サポーターがスタジアムに足を運んでくれるチームではなかったので、自分たちを身近に感じてもらえる機会を、クラブとしても、選手としても大事にしてきたことで、今につながっていると思っているんです。

猶本 状況としてはレッズレディースも一緒だと思うので、レッズはもちろん、フロンターレをはじめとするJリーグのチームから学べるところはたくさんありそうですね。

中村 ただ、フロンターレもいきなり等々力が満員になるクラブになったわけではないように、そうした活動が実を結ぶのは、本当に徐々に、徐々にだと思います。だから、WEリーグの選手たちには、まずスタジアムに来た観客やファン・サポーター、あとは子どもや学生がこの舞台に立ちたいと思ってくれるようなパフォーマンスを示してほしい。プロとしての大きな役割の一つとして、憧れる対象にならなければいけないと思うので。それこそレッズもフロンターレもそうですが、特に関東圏のファン・サポーターは、どこにでも行けますからね。

猶本 それはファン・サポーターが、ということですよね?

中村 そうです。要するにお金を払ってサッカーを見に行かなくても楽しめるところがいくらでもある。それでも、レッズレディースの試合を見に行こうと思ってくれる人をどれだけ増やせるか。あとは、これから先、勝敗に関係なく、追いかけてくれる人をどれだけ増やしていくことができるか。これは全チームに言えることですが、勝てば観客の人数が増え、負けたら観客の人数が減るという状況では、まだまだ地域に根付いているとは言えないと僕は思っているんです。ちょっと厳しい意見かもしれないですけど。

猶本 いや、その通りだと思います。ピッチで結果を残すことは大前提ですが、フロンターレもそうした活動をしているように、レッズレディースでも商店街などに行って地域の人と触れ合ってみたいなと思っています。以前、憲剛さんが車にサインを書いているところを記事か何かで拝見したことがあったんですけど、地域の人やファン・サポーターの人たちにとって、それくらいの存在になりたいなって。

中村 よく、知っていますね。懐かしい(笑)。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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