初対面の2人が描くプレーの共通点とは? 猶本光×中村憲剛スペシャル対談【前編】

原田大輔

相手にとって何が怖いかを考える

ドイツからレッズレディースに復帰した直後は戸惑いもあったという猶本だが、2年目となる今季は新境地を開拓している 【Getty Images】

中村 そういった意味では、長く続けていくには、しっかりとした武器を持つことが大切だと思います。例えば、身体能力やフィジカルに頼ってプレーしていれば、ある日を境に衰えが来ますからね。僕自身が、そこを強みとする選手ではなく、学生時代から技術と思考で勝負していかなければ太刀打ちできない選手だったところも大きかったと思っています。猶本選手のプレースタイルを見ると、かなり考えてプレーしていますよね?

猶本 以前はずっとボランチだったのですが、ドイツ時代も含めて、レッズレディースに帰ってきてからは前目のポジションでプレーする機会が増えました。それによって自分自身が得点することやゴールを演出することを求められるようになり、今はその課題と面白さに向き合っているところです。これも『ラストパス』に書いてありましたが、憲剛さん自身も、大島僚太選手が成長したことで、再びボランチからトップ下にポジションが変わっていったんですよね。

中村 僕の場合はもともとトップ下で、ボランチはプロ2年目にコンバートされてからでした。猶本さんはずっとボランチでしたか?

猶本 そうですね。中学生のときは前目のポジションでプレーしていたこともありましたけど、高校生からはずっとボランチでした。

中村 それだと最初は2列目でのプレーに難しさを感じたかもしれないですね。

猶本 そうなんです(苦笑)。ボランチだと前向きでボールを受ける機会が多いですけど、2列目になると、自陣を向いてパスを受ける回数の方が増えるので、最初はそこに怖さを感じてしまったんです。対峙する相手も中盤の選手からセンターバックになるので、プレッシャーの強度もかなり変わってくるじゃないですか。

中村 その気持ち、めちゃめちゃ分かります(笑)。

猶本 憲剛さんはどうやって工夫したんですか?

中村 僕の場合は、まずは相手に当たらないようにしました。要するに、自分が相手ゴールを背にしてプレーするときは無理をしないようにしたんです。それでもう一度、前を向ける場所を探してからボールをもらい直すようにしました。ただ、これは一人ではどうにもならないところもあって、周りにも自分の意図を理解してもらわないといけない。

猶本 ですよね……。前を向ける位置でだけボールを受けようとしていたら、一生、ボールをもらえないんじゃないかと思うときもありませんでしたか?

中村 その気持ちもめっちゃ分かります(笑)。だから僕の場合は、僚太や守田(英正)、(田中)碧にとにかく前を向くように言い続けたんです。相手の隙間を縫ってボールを受ける体勢を作るから、その瞬間を絶対に見逃すなと。まあ、僕自身がボランチのときにジュニーニョに同じことを何度も言われていたんですけどね(笑)。でも、逆の視点で考えると、ボランチがしっかりと前にパスを出せるようになると、相手が中央を締めてくるので、チームとしては攻めやすくなる。

猶本 確かに、そうなりますよね。

中村 相手にとって何が一番怖いプレーかを考えると、前線へと縦にボールが入ること。それをさせないために、どのチームのディフェンスも考えられているので。

――猶本選手は、以前よりもチームメートに対して要求するようになりましたか?

猶本 場面、場面で要求する機会は増えているかもしれません。チームメートへの伝え方も考えるようになったことで、以前よりもボールが入ってくる回数は多くなったように思います。

中村 それができれば、相手にとってさらに怖い存在になれると思いますよ。自分が仕事をできるタイミングで、ボールが来るわけですから。特に猶本さんは、右でも左でも蹴れるし、ドリブルで仕掛けられれば、スルーパスも出せる。チームにとっても、そこがストロングだと思ってもらえるように、積極的に要求していってもいいと思います。

猶本 そうですね。

中村 ただ、チームのストロングになるためには、当然、結果を残さなければいけない。自分のパスによって、周りが点を取れるようになると、次第に周りも自分に合わせて動いてくれるようになる。僕自身も、そうやってチームメートに要求して、結果を残していったことで、自分がボールを持ったときに、(大久保)嘉人や(小林)悠がタイミングを合わせて動き出してくれるようになった。彼らが、その成功体験を知っていたから、さらに嘉人や悠は僚太にも同じことを要求するようになった。そうやって、みんなで練習から擦り合わせていった結果、フロンターレのサッカーはできていったように感じています。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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