千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

掲げた理念は「挑戦・熱狂・結束」 ロッテの現場・フロントに行動の迷いなし

長谷川晶一
「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基に策定されたチームの中長期的なビジョンやメッセージをまとめた「Team Voice」を表明した2021年のマリーンズ。1974年以来、47年ぶりのシーズン勝率1位での優勝に向けて、グラウンドでは日々激闘が繰り広げられている。そのような中で届ける全4回の連載の第3回は、具体的に理念が策定されていった背景を追う。

選手たちが常に目にする「チームスローガン」

守護神として「1点」守り抜く益田直也。9月10日には史上17人目の通算150セーブを達成した 【写真は共同】

「ここから選手が入ってきて、この通路を通って選手ロッカーに入ります。そして、この通路を通って、ここからグラウンドに出ていきます。いずれも、選手たちの目にはこのスローガンが飛び込んでくるようになっています……」

 ZOZOマリンスタジアムの選手用通路で説明を続けるのは、マリーンズの広報・梶原紀章だ。梶原の指し示す先には、今季のマリーンズのチームスローガンである「この1点をつかみ取る。」の文字が大きく踊っている。このスローガンの作成に携わったのが、井口資仁監督であり、河合克美オーナー代行兼球団社長である。

「昨年、優勝するためには“この1点”というところが、とても目立ったシーズンだったと思います。《1点》というのは口でいうのは簡単だけど、決してただの《1点》ではなく、常に意識していないといけないとても重要なものだと考えました」(井口)

「昨年のソフトバンクの平均失点が3.24で、平均得点が4.43でした。対するマリーンズは平均失点が3.99で、平均得点が3.84です。平均の数字で比較すれば、それぞれ1点の差もないんです。犠牲フライの数もソフトバンクは圧倒的にマリーンズよりも多い。こういうことが、細かいデータを比較することで見えてきたんです」(河合)

 どの球団でも、毎年それぞれのチームスローガンが作られる。しかし、今年のマリーンズのスローガンは、単なる「お題目」ではない。考えに考え抜かれた、中長期的なビジョンの下に策定されたスローガンなのである。全社的なプロジェクトの結果、社員たちの間から出てきたのが、「挑戦・熱狂・結束」という言葉だった。確かに、現状のマリーンズを象徴する言葉である。しかし、「このままではまだ十分ではない」と異議を唱えたのが河合だった。

「この三つの言葉は、確かにマリーンズにふさわしい言葉だと思います。でも、まだマリーンズのことを知らない人の視点で言えば、決して《マリーンズならではの言葉》ではありません。他のチームにも、他のスポーツにも当てはまる言葉だと思ったんです」

 その結果、ここからさらなるブラッシュアップが図られることになる。こうして、「マリーンズが勝つための三カ条」として、「勝利への挑戦」「勝利の熱狂」「勝利の結束」が定められた。さらに、使命、行動指針、そして、2025年に向けて「Vision 2025」を策定する。こうして完成したのが「千葉ロッテマリーンズ理念」だ。

 さらに、この理念を基に、球界としては初の試みとなる「中長期的メッセージ」である「Team Voice」を策定するのである。

中長期的ビジョン「TeamVoice」

「惜しかった。あと1点が取れていれば。あの1点を守れていれば。それで落としてきた白星がいくつある? 本当に信じているか? 優勝して、日本一になって、常勝軍団になることを。その唯一の方法は、今日も、明日も、勝つしかない。1点でも相手より多くとって、その1点を守りきる。目の前のチャンスをつかみ取り続ける。だから俺たちは熱狂する。その粘り強さに。その本気の執念に。その1点が、明日を変える。」

 従来のような単年ごとのスローガンではなく、チームとして目指すべき方向性を明確に打ち出し、さらにそれをファンとも共有することで、より確固たるものとしていく。「Team Voice」の文言を読むと、21年のチームスローガンが「この1点を、つかみ取る。」となったのもよく理解できる。

 こうして、2021(令和3)年1月30日に「Team Voice」が、翌31日に「チームスローガン」が相次いで発表され、3月8日に満を持して「千葉ロッテマリーンズ理念」が披露されたのである。チーム力強化を図り、「令和の常勝軍団」を目指すべく積極的にFA戦線に参入し、意欲的なドラフト戦略を採り、シーズン中のトレードを次々と敢行。優勝を目指すための貪欲な補強を続けている。

 一方、グラウンド外でも自らの足元を見つめ直し、新たな顧客を創出すべく積極的な施策を次々と打ち出している。理念が策定されてから半年が経過した。チームは激しい優勝争いを続けている。マーケティング戦略本部長である高坂俊介が、ここまでの成果を総括する。

「もちろん手応えはあります。ただ、“まだスタートラインに立ち、始まったばかりだ”という感覚も非常に大きいです。チームは優勝争いを続けていますが、事業サイドでは胸を張って、“これが達成できました”というフェーズにはありません。ただ、事業担当者と話をしていても、自分たちの目指すものが何なのかが明確になったのは間違いありません。数々の取り組みにおいて、迷いが消えつつあるのは事実です」

 球団公式ホームページや各種SNS、球場内で流れるビジョン映像や各種ポスター、球団グッズの数々。あるいは球団職員の名刺、社内会議用のプレゼン資料にいたるまで、「すべての制作物の世界観が統一されている」と高坂は言う。

「現在、マリーンズに関する、あらゆるものの世界観が統一されています。これは私が担当するマーケティング戦略本部だけの話ではなく、各事業担当レベルにまで浸透しています。理念やTeam Voiceなど、各部門にも浸透、理解、実行がなされつつあるのかなという気がします」

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著者プロフィール

長谷川晶一

1970年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て独立。スポーツを中心にさまざまなノンフィクション作品を出版。主な著書に『最弱球団 高橋ユニオンズ青春記』(彩図社)、『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』(集英社)、『夏を赦す』(廣済堂出版)、『極貧球団 波瀾の福岡ライオンズ』(日刊スポーツ出版社)など。

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