奥原希望、五輪での「答え合わせ」を回顧 変化の5年、敗戦の要因、新方程式の模索

平野貴也

東京五輪での金メダルを目指し、バドミントンのスタイルを変えるなど挑戦し続けた。奥原が5年の挑戦、そして東京五輪を振り返ってくれた 【スポーツナビ】

 東京五輪・パラリンピックを終え、また新たな時代へ進んでいく。一つの挑戦を検証し、次の挑戦に向かうタイミングと言える。東京五輪を「5年間の答え合わせ」と表現したのは、バドミントン女子シングルスに出場した奥原希望(太陽ホールディングス)だ。2016年リオデジャネイロ大会で銅メダルを獲得後、小柄ながら守備力を武器に17年世界選手権を制覇。19年には世界ランク1位になるなど成果を挙げてきた。その中で、東京五輪の金メダルを目標に定め、リスクのある攻撃的なスタイルへの変化を目指してきた。覚悟を持って臨んだ集大成の戦いをどのように振り返り、次はどこへ向かおうとしているのか、インタビューで本音に迫った。

「本当に強い奥原希望」でコートに立てた

準々決勝で敗れた奥原は「答えにたどり着けなかったことが、すべて」と言い切るが、「やってきたことの後悔もない」とスタイル変更に胸を張る 【Getty Images】

――コロナ禍によって1年延期、国際大会がなくブランクができた上、無観客、自国開催と非常に特異な大会になりましたが、どう感じていましたか?

 新型コロナウイルスの感染者数が落ち着かず、世論の支持を得られない中で大会が始まったと感じていて、思い切り全力で五輪に挑みたい気持ちと、挑んでいいのかなという真逆の気持ちが出てきてしまっていました。でも、初戦の後に、「こんなんじゃダメだ」と思って気持ちを切り替えて、次の試合からは今まで通りにできたかなと思います。開幕後は報道の風潮も変わっていって、皆さんのポジティブな声も聞こえてきたので、大会が進むにつれて、気持ちが楽になって助けられた部分もありました。

――成績はベスト8で、2大会連続のメダル獲得はなりませんでした。試合後に「5年間の答え合わせ。その答えとして私がたどり着く場所が、ここだった」と厳しい現実を自身に突き付けながらも堂々と話していたのが印象的でした。

 前回よりも本気で(優勝を)狙って挑んだ大会だったので、リオよりも本当に強い奥原希望でコートに立てたという自信は、ありました。でも「挑戦の過程が良かったから、自分の中での5年間の挑戦の方程式は正解でした」というのは、絶対に違うと思っています。私の中で、方程式の答えは、東京五輪の金メダル。その答えにたどり着けなかったことが、すべて。今でもその思いは、変わっていません。ただ、過程については、やるべきことをやってきて、全く後悔はないですし、周りの多くの人に支えられて来て、リオよりも胸を張ってコートに立てて、負けたときも胸を張って帰ることができたのかなと思います。

攻撃的なカウンタースタイルへの挑戦と、不発の要因

――5年間の挑戦の方程式は「攻撃的なプレースタイルへの変化」と19年からの「プロとしての歩み」が2大要素でしたよね。

 そうですね。19年にプロになって(個人の目標に専念できる)環境を整えて、勝つ確率を上げていくために、プレー面でどうしていくか。攻撃、ディフェンスの質を含めて、こだわってきました。17年の世界選手権は、まだプロ化について模索していた段階で、これなら金メダルが取れるという明確なイメージを作り切れていなかったので、守備的なスタイルでした。

――新しい攻撃的なスタイルは、こちらが予測した球を相手に打たせ、なおかつ返球できる程度のスピードアップを誘い、早いタイミングでカウンターとなるリターンを打つ形ですが、理解していないと「打たれている」だけに見えますし、少し配球が甘くなれば痛打されるリスクがありますよね。

 見て分かりやすいのは「打たれた」次の球を、自分が取れているか、いないか。そこからどう展開しているのか。取った次も攻められていたら、ギリギリ拾った形ですし、取った後に良い体勢や、良いパターンに持っていけていたら、誘って打たせたということになりますけど、前後の球を見ないと判断が難しいですね(笑)。ただ、敗れた準々決勝の試合では、左利きの相手がフォア奥から打つクロスショットを意識的に引き出していたのですが、足が出ないなど修正しきれず、打たせているというよりも、打たれてしまった展開でした。

しっかりと敗戦を分析している。その中に体調の不調もあったという 【Getty Images】

――試合後の取材で「(守備から立て直すための)クリアを打たなかったのは、なぜか」と聞きましたが、守備的な戦いに切り替えることは考えませんでしたか?

 競泳の予選、準決勝じゃないですけど、連戦のトーナメントで優勝するためには、準々決勝、準決勝をいかに(体力を消費せず)クリアするかという戦い方も必要になります。攻撃的なスタイルだと、打たせる球で誘うので、ある程度限定できるのですが、大きいクリアを打つと、全部(のコースを)待たなければならず、メンタル、フィジカルの強さが絶対的に必要になります。もちろん、その選択も考えましたが、今回はピーキングを合わせられなかったのかなとも思っています。準々決勝で戦った何氷嬌選手(ヘ・ビンジャオ/中国)に対しては、フィジカルは絶対に負けないという要素だったのですが、あの時は、相手の動きが落ちていると全く感じられず、逆に自分がきついと思っていました。それが、クリアを打って待てなかったことや(気迫あふれたトーナメント1回戦のような)自分の強気を表現できなかったところにつながったかもしれません。

――1回戦後に「呼吸がしにくく、声を出すことで、息を吸い込むようにした」と言っていました。プレッシャーで体力を消耗した可能性もあるのでは?

 あまり話していなかったことですが、大会前から、呼吸や脈と自分の感覚が合っていませんでした。緊張やストレスもあったとは思いますけど、その感覚とは違うように感じました。今までは、試合中に息が上がってもすぐに落ち着いて元の状態に戻れたのですが、今回は戻れませんでした。大会期間は気持ちを(強く)保っていますし、ネガティブな要素は見たくもないし、受け入れないようにもしているので、原因が見えにくくなっているかもしれないとは思います。しかし、原因を探れないと、また次にプレッシャーがかかったときに、同じことが起こるかもしれないので、慎重に判断していきたいと思っています。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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