鍵はデータ分析と密なコミュニケーション ロッテ井口監督に聞く改革の途中経過
マリーンズを常勝軍団にするために
中長期的なビジョンを持ち、現場を率いている井口監督 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】
井口 現役時代からチームマネジメントにはずっと興味がありましたし、「効果的にチームを補強するにはどうすればいいのか?」ということに関心がありました。そこで、自分が監督に就任するときも、「約束」と言ったらおかしいかもしれないけど、長いスパンでどのようにチームを強くしていくのか、若手を育てながらどのように常勝軍団を作っていくのか。そういうことを全体で共有したいという思いはありました。
――先に挙げた本のタイトルには「下剋上」という言葉が出てきます。2005(平成17)年、そして10年のロッテ日本一の際には、しばしば「下剋上」と言われました。この言葉について、監督はどのようにとらえていますか?
井口 確かにシーズン3位からの日本一もあって、「ロッテ=下剋上」のイメージは強いと思います。それもまたマリーンズの魅力の一つかもしれないけど、「ロッテ=下剋上」のままでは、いつまで経っても我々は優勝できません。現に1974(昭和49)年以来、我々はシーズン1位になっていません。自分が現役のときにも「3位以内に入ればクライマックスシリーズに出られる」と考えている選手はいました。でも、そういう考えを一掃しなければ常勝軍団は作れないと思います。
――今季の優勝、日本一はもちろん目指しつつ、その視線の先には「ロッテを常勝軍団にする」という目標があります。そのための第一歩として、今年のロッテは「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基にして、さらに中長期的なビジョン共有のために「Team Voice」を表明しました。
井口 今季の取り組みの一つとして、「球団理念」と「Team Voice」を発表したことで、自分たちの目指すべき方向性が明確になったと思います。さらに、今季のチームスローガンである「この1点を、つかみ取る。」も、今のチームに一番明確なフレーズだったと思います。
――「球団理念」と「Team Voice」については、連載3回目以降に改めて詳述したいと思いますが、まずはこのチームスローガンに込めた意味を教えていただけますか?
井口 昨年、日本一になったソフトバンクとうちの平均得点、平均失点などの数字を細かく比較していくと、いずれも1点差もないんです。だから、「もう1点、相手よりも多く点を取ろう」とか、「もう1点だけ失点を減らそう」とこだわることができれば、トップチームと入れ替わることができる。そんな思いが原点です。そのためには、攻撃で言えば相手投手に1球でも多く投げさせる、粘ってフォアボールを奪い取る、足を絡めてゆさぶる、ノーヒットでも点を取る……。こうした細かい野球を徹底しようという思いが込められています。
――こうした数字による説明は、当然選手たちにもなされているわけですね。
井口 昨年のデータは選手たちも当然わかっていますし、こういうスローガンになった経緯もきちんと説明しています。このスローガンは球場内のいたるところに大きく書かれています。選手が球場入りして、選手ロッカーに向かう途中にもありますし、ロッカーからグラウンドに向かう間にも書かれています。
――開幕から4カ月強が経過して、このスローガンの成果を感じることはありますか?
井口 前半戦を終えた段階でこれだけ得点力が上がったというのは、「その1点が明日を変える」と宣言している「Team Voice」や「この1点を、つかみ取る。」というスローガンに込めた思いが少しずつ浸透しているからだと思います。足でかき回して1点を取ったり、フォアボールを奪い取ったり、選手たちの意識も少しずつ変わってきている実感はありますね。