千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

鍵はデータ分析と密なコミュニケーション ロッテ井口監督に聞く改革の途中経過

長谷川晶一
「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基に策定されたチームの中長期的なビジョンやメッセージをまとめた「Team Voice」を表明した2021年のロッテ。今回は、シーズン後半戦に向けた準備を進めている現場の指揮官・井口資仁監督のインタビューをお送りする。理念や「Team Voice」により、グラウンド内にどのような変化を生まれているのか、語ってもらった。

マリーンズを常勝軍団にするために

中長期的なビジョンを持ち、現場を率いている井口監督 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

――井口監督の著作、『もう下剋上とは言わせない』(日本文芸社)を読むと、監督就任の際の要望として「マリーンズ黄金時代到来へのビジョンをフロントとも共有したい」という趣旨の一文がありました。その意味、狙いを教えてください。

井口 現役時代からチームマネジメントにはずっと興味がありましたし、「効果的にチームを補強するにはどうすればいいのか?」ということに関心がありました。そこで、自分が監督に就任するときも、「約束」と言ったらおかしいかもしれないけど、長いスパンでどのようにチームを強くしていくのか、若手を育てながらどのように常勝軍団を作っていくのか。そういうことを全体で共有したいという思いはありました。

――先に挙げた本のタイトルには「下剋上」という言葉が出てきます。2005(平成17)年、そして10年のロッテ日本一の際には、しばしば「下剋上」と言われました。この言葉について、監督はどのようにとらえていますか?

井口 確かにシーズン3位からの日本一もあって、「ロッテ=下剋上」のイメージは強いと思います。それもまたマリーンズの魅力の一つかもしれないけど、「ロッテ=下剋上」のままでは、いつまで経っても我々は優勝できません。現に1974(昭和49)年以来、我々はシーズン1位になっていません。自分が現役のときにも「3位以内に入ればクライマックスシリーズに出られる」と考えている選手はいました。でも、そういう考えを一掃しなければ常勝軍団は作れないと思います。

――今季の優勝、日本一はもちろん目指しつつ、その視線の先には「ロッテを常勝軍団にする」という目標があります。そのための第一歩として、今年のロッテは「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基にして、さらに中長期的なビジョン共有のために「Team Voice」を表明しました。

井口 今季の取り組みの一つとして、「球団理念」と「Team Voice」を発表したことで、自分たちの目指すべき方向性が明確になったと思います。さらに、今季のチームスローガンである「この1点を、つかみ取る。」も、今のチームに一番明確なフレーズだったと思います。

――「球団理念」と「Team Voice」については、連載3回目以降に改めて詳述したいと思いますが、まずはこのチームスローガンに込めた意味を教えていただけますか?

井口 昨年、日本一になったソフトバンクとうちの平均得点、平均失点などの数字を細かく比較していくと、いずれも1点差もないんです。だから、「もう1点、相手よりも多く点を取ろう」とか、「もう1点だけ失点を減らそう」とこだわることができれば、トップチームと入れ替わることができる。そんな思いが原点です。そのためには、攻撃で言えば相手投手に1球でも多く投げさせる、粘ってフォアボールを奪い取る、足を絡めてゆさぶる、ノーヒットでも点を取る……。こうした細かい野球を徹底しようという思いが込められています。

――こうした数字による説明は、当然選手たちにもなされているわけですね。

井口 昨年のデータは選手たちも当然わかっていますし、こういうスローガンになった経緯もきちんと説明しています。このスローガンは球場内のいたるところに大きく書かれています。選手が球場入りして、選手ロッカーに向かう途中にもありますし、ロッカーからグラウンドに向かう間にも書かれています。

――開幕から4カ月強が経過して、このスローガンの成果を感じることはありますか?

井口 前半戦を終えた段階でこれだけ得点力が上がったというのは、「その1点が明日を変える」と宣言している「Team Voice」や「この1点を、つかみ取る。」というスローガンに込めた思いが少しずつ浸透しているからだと思います。足でかき回して1点を取ったり、フォアボールを奪い取ったり、選手たちの意識も少しずつ変わってきている実感はありますね。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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