「パリ五輪での金メダル」は見えたか? 四元奈生美が卓球女子団体決勝を解説

吉田治良

女子団体はロンドンの銀、リオの銅に続く3大会連続のメダル獲得となった。決勝まで3戦連続ストレート勝ちと順調で、金メダルの期待も高まっていたが… 【Getty Images】

 卓球の女子団体戦決勝で、日本チーム(伊藤美誠、石川佳純、平野美宇)は中国チーム(陳夢、孫穎莎、王曼ユ)に0-3で敗れた。第1試合のダブルスで陳/王ペアと対戦した石川/平野ペアが1-3の逆転負けを喫すると、続くシングルスの2試合(伊藤vs.孫、平野vs.王)も、それぞれ1-3、0-3で完敗。ロンドン五輪以来の銀メダル獲得は立派だが、悲願の金メダルにはまたしても手が届かなかった。元プロ選手の四元奈生美さんに、この団体戦決勝のポイントを解説していただくとともに、3年後のパリ五輪に向けた課題と収穫を挙げてもらった。
 

ダブルスに勝って伊藤につなぎたかった

第1ゲームを先取した石川×平野ペアのダブルスだが、その後3ゲームを連取されて逆転負け。四元さんは「ポイントは第3ゲームだった」と振り返る 【写真は共同】

 まず感じたのは、中国の本気度でした。過去の対戦を振り返っても、ここまで中国が本気で向かってくることはなかったと思います。いつもどこかに王者の余裕があって、受けて立つという感じでしたからね。

 今回は、直前に劉詩雯選手から王曼ユ選手にエントリーを変更し、3選手とも五輪団体初出場になりましたが、それもあって、守りに入るのではなく、終始攻めてくる印象がありました。もちろん、日本が決勝まで3試合連続ストレート勝ちと圧倒的な強さを見せていたので、警戒心も強かったのでしょう。

 ただ、結果的にダブルスの1試合とシングルスの2試合で計2ゲームしか奪えませんでしたが、どのゲームも中国が少しでも油断していれば、日本が取っていたような内容でした。

 だからこそ、やっぱり最初のダブルスは取りたかったですね。

 幸先よく第1ゲームを先取しましたが、平野(美宇)選手がチャンスを作って、石川(佳純)選手がいつも以上に積極的に仕掛けるという素晴らしい形ができていました。あれだけ攻める石川選手というのは、あまり見たことがないくらいすごかった。

 第1ゲームでは平野選手のボールを王選手が受けるターンでしたが、王選手は早いタイミングで打ってくる平野選手のバックハンドになかなか対応できていなかった。中国は右利きと右利きのペアだったので、ポジションを取りづらい台の左側(バックサイド)にうまくボールを集めていたのも良かったと思います。

 ですが、第2ゲームは平野選手のボールを陳夢選手が受けるターン。安定感のある陳選手は、平野選手のスピードにもついてきましたし、単純なミスもしない。片方のサイドに寄せられても崩れず、巧みに王選手の強打を引き出していましたね。

 ただ、第2ゲームは仕方ないと割り切って、再び平野選手のボールを王選手が受ける第3ゲームに取り返せばいいと思っていたのですが、ここで日本の速い攻めにしっかりと対応してくるのが中国なんですね。スピードに目が慣れてくると、陳選手なら緩急自在のドライブ、王選手なら長いリーチを生かした強打といった武器をどんどん出してきて、日本はラリー戦でポイントが取れなくなっていくんです。

 台から下げさせられて、中陣(台から2〜3メートル離れた領域)の戦いに持ち込まれると、どうしてもパワーで押し切られてしまう。

 分岐点はここでしたね。この第3ゲームを取れていたら、その後の展開も違っていたはずなんですが……。そして、できればダブルスに勝って、相手にプレッシャーを与えた状態で、シングルスの伊藤(美誠)選手につなぎたかった。
 

そろそろナックルボールへの対策を

女子シングルス準決勝のリベンジを果たしたかった伊藤だが、この団体戦でも孫に敗れてしまった。回転の少ないナックル気味のボールに手こずった印象だ 【写真は共同】

 女子シングルス準決勝で敗れた借りを返したかった伊藤選手ですが、孫頴莎選手は攻めさせてミスを誘うという、前回対戦時と同じような作戦を取ってきましたね。中国選手が相手になると、伊藤選手は得意のサービスレシーブからの点数が少なくなるのですが、そこで簡単にミスをしてくれないので、試合の主導権を握るのが難しいんです。

 また、バック対バックのラリー戦になったとき、孫選手はゆっくりとした回転のないボールとか、逆に速くて回転の多いボールとか、リズムと回転量を変えながら、多彩な球種を伊藤選手のバックサイドに入れてきました。

 特にゆっくりとした回転の少ないナックル気味のボールは厄介で、表ソフトラバーで打ったときに表面の粒が倒れないので、変化して返らない。しかもブロックしたときに下に落っこちてしまうから、あのボールが1球入ることによって、その後の角度の調整が難しくなってしまうんです。

 ただ、そうやって中国の選手が球感(ボールを受けた感覚)を変えてくるのは、今に始まったことではありません。昔から中国の選手が打ってくるボールには、なんらかの“仕掛け”がありましたからね。ナックルボールを打たされているのであれば、それをどう返し、逆にどうこちらが攻めていくのか、そろそろ対応できるようにならなくてはいけないでしょうね。

 伊藤選手は、パッと前で払うフリックを多用して第3ゲームを取りましたが、孫選手はその作戦にもすぐに対応してきました。あの対応力は、やっぱりすごい。あとは、王選手のような背が高くて手足が長い選手への対抗策も考えていかないと。3戦目のシングルスで対戦した平野選手が、コーナーぎりぎりを狙ったチキータのレシーブを返しても、普通に届いていましたからね。もう少し身体の近くに打って崩し、精神的に焦らせる必要があるかもしれません。

 孫選手(20歳)と王選手(22歳)は、きっと3年後のパリ五輪にも出てくるでしょう。これまでの中国は、「五輪が終わったら世代交代」というサイクルでしたが、今回は五輪の大会期間中にそれを済ませてしまった。エントリー変更で王選手にこの大舞台を経験させた判断は、次の大会にも生きてくるでしょうね。

 とはいえ、日本も今回はリザーブに入った早田ひな選手(21歳)をはじめ、若い世代がどんどん育ってきています。東京五輪で中国に苦しめられた戦術を研究し、対策を練りながらトレーニングを重ねていけば、3年後のパリ五輪では、今度こそ金メダルを獲ってくれると信じています。

 最後になりますが、今大会で素晴らしい試合をたくさん見せてくれた日本の女子卓球チームには、感謝の気持ちでいっぱいです。卓球がこれだけ熱くなれるスポーツなんだってことを、あらためて実感させてもらえました。一卓球人として、本当に感動しました。ありがとう!
 
(企画構成:YOJI-GEN)
 
四元奈生美(よつもと・なおみ)
1978年9月21日生まれ、東京都立川市出身。4歳から卓球を始め、数多くの大会で優勝。2001年4月、大学卒業と同時にプロに転向する。 04年には中国超級リーグに参戦。北京チームに所属。同チームの超級クラスでは外国人初の所属選手となり、この年の総合優勝に貢献した。08年には全日本選手権、混合ダブルスで準優勝。11年に結婚・出産後、13年1月の全日本選手権に出場。カラフルなユニフォームを着用して試合に出場し、「卓球界のジャンヌ・ダルク」とも呼ばれた。現在は、コメンテーター&スポーツウェアデザイナー、ママプレーヤーとして活動中だ。
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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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