二兎を追う革命児・バドミントン渡辺勇大 世界的に希少、2つのメダルを狙う

平野貴也

遠藤とのペア結成も奏功、世界で着実に成果残す

東京五輪の初日は、朝に混合ダブルスを戦い、夜に男子ダブルスという過密日程となるが、渡辺は弱音を吐くことがない 【写真は共同】

 経験豊富な遠藤とペアを組んだことも、渡辺にとっては学びが多かった。遠藤と組み始めてから何が変わったのかと聞くと、渡辺はこう答えた。

「高校生から社会人になって、ベースになる部分が足りないのは明らかでした。それまでは同年代の選手と戦うことが非常に多くて、好き勝手にやっても勝てた試合がほとんどでしたけど、通用しない相手に対して、自分の長所を捨ててでも、勝てるゲーム、負けないゲームをするということを教えてもらいました。イチかバチかの球を打つとか、自分が好きなように動くというのをあえて制限して自分の長所が消えても、相手が好きなようには動けないようにするなど相殺することで勝利に結びついたりするというゲームが、今、かなり増えてきているんじゃないかと思います」

 2人のパートナーと組む2つのダブルス。無謀にも見える挑戦は、世界で着実に成果を残してきた。2018年、世界選手権よりも古い歴史を誇る全英オープンで混合ダブルスを初優勝。中国の強豪ペアを破って、世界に存在をアピールした。2019年には、混合ダブルスで世界選手権銅メダル。強打とフェイントを織り交ぜ、相手の足を完全に止めてノータッチで得点を奪う様子は、現地の観衆を魅了した。その年の暮れには、前述のワールドツアーファイナルズで男子ダブルスで準優勝、混合ダブルスで3位タイと、ついに両種目で同時に頂点が狙える可能性を示した。2020年には、男子ダブルスで全英オープンを優勝。渡辺は歴史ある全英で日本人初の2種目制覇者となった。
 

一種の禁句であるコンディション面の質問

 2種目の掛け持ちは、当然、体力的に厳しい。トップ選手の中で、渡辺1人だけが1日に2試合を行うことになる。例えば東京五輪の競技初日となる24日は、午前9時から混合ダブルスを戦い、午後8時からは男子ダブルス。翌25日は、昼の12時40分から男子ダブルス(この日は1試合)と試合が続く。

 誰でも気になるコンディションの問題は、試合後に報道陣から聞かれることの多い項目だ。しかし、渡辺にとっては一種の禁句でもある。渡辺は、大体「問題ないです。2種目で優勝するのが目標なので」と強く言い切る。「1日2試合やるので、経験値は2倍です」とメリットを強調していた時期もあった。

 勝てば勝つほど体力面では難しくなる。世界トップレベルの選手だけが参加するBWFワールドツアーファイナルズ(2019年)に両種目で出場し、世界王者クラスとの連戦が続く中、男子ダブルスで準優勝、混合ダブルスで3位タイまで勝ち上がったときだけは、さすがに疲労を認めたが、体力面の弱音は吐かないと決めているように思える。別の種目でしんどくなったなどと言うわけにはいかないというのが、掛け持ちに理解を示してくれる両パートナーへのマナーであり、2種目制覇にかける覚悟なのだろう。7月上旬、代表合宿中にオンライン取材対応を行った際には「3人で1つのチームだと捉えている」とも表現した。

 渡辺の挑戦は、新たな可能性を切り拓いてくれる。本人は両種目制覇を目標に掲げるが、色は別としてメダルを2つ獲得するようなら快挙となる。「次世代の選手にもいろいろな可能性を見せられたらいい」と話した渡辺が活躍すれば、日本代表チームの全種目メダル獲得は夢ではない。二兎を追う革命児のプレーに、ぜひ注目してほしい。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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