連載:プロ野球・球種別最強投手は誰だ!?<フォークボール編>

スパコンで解明されたフォークボールの謎 「ストンと落ちる」は錯覚、実際は…

前田恵
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東京工業大学の青木尊之教授は、世界トップレベルのスパコン『TSUBAME3.0』を使い、フォークボールが落ちる謎を解明した 【撮影:スリーライト】

 今年の3月下旬、大手メディア各紙で「フォークボールが落ちるメカニズムをスパコン解析で解明」の見出しが躍った。そもそもフォークボールは「ボールの回転が少ないから落ちる」と今まで信じられてきたが、スーパーコンピューターがこれまでの常識を根本から覆したことになる。では、なぜフォークボールは落ちるのか? その真実を聞きに、東京工業大学の青木尊之教授の研究室へ足を運んだ。

フォークが落ちる謎は縫い目にあり?

ボールに「負のマグヌス効果」が働いている様子をシミュレーションした画像 【資料提供:青木尊之教授】

――まずは、今回のご研究の経緯からお教えください。先生はなぜフォークボールに魅せられたのでしょうか。

 フォークボールは、『伝家の宝刀』ともいわれる決め球。バッターが「来るぞ」と分かっていても打てない代表的な変化球です。私も中学生のころ、『マサカリ投法』の村田兆治投手(元ロッテ)、『トルネード投法』の野茂英雄投手(元近鉄ほか)などのフォークボールを見て、「よく落ちるなあ」「すごい変化球だなあ」と、ただただ感心していました。

――それが、研究テーマになったきっかけは?

 私の研究分野は、数値流体力学です。特に“水と空気”が混在する気液二相流という流れや、それに複雑形状の固体を加えた固気液三相流など、『混相流』という分野においてスーパーコンピューターで高解像度の計算を行い、流体力学の新しい発見を目指しています。最近の研究では、アメンボがなぜあんなに速く水の上を泳げるのかとか、津波・土石流など自然災害の数値流体シミュレーションを行ってきました。この計算ツールを使えば、もちろん空気だけの流体現象の計算ができる。それなら野球の、変化球が落ちる理由についても計算で分かるんじゃないか、というところからスタートしました。

――かつての憧れが、研究対象になったわけですね。

 フォークボールがなぜ、あんなに急激に落ちるのか。「これには絶対何かあるぞ」と思いまして。いつか研究したいという気持ちがありました。その機が今、熟したんですよ。昨今メジャー・リーグをはじめとして、球の回転数から落差から、非常に細かいデータが出るようになった。また、スーパーコンピューターの性能がどんどんよくなってきた。東工大の学術国際情報センターには今、『TSUBAME3.0』という世界トップレベルのスパコンがあります。その計算能力に加えてシミュレーションの技術がグンと上がってきた。この3つが揃って、「フォークボールの落ちる謎をスパコンで計算して解明」できると思うようになりました。

――ズバリ、フォークボールはなぜ、落ちるのですか?

 落ちる理由は、『負のマグヌス効果』にあります。
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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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