湘南ベルマーレとサポーターの新たな関係 トークンだからこそ実現する「特別な日」

池田タツ

クラブスタッフとオンラインミーティングも

湘南営業部の加藤謙次郎氏。東京ヤクルトスワローズではマスコット「つば九郎」のプロモーションをはじめ、さまざまなファンサービスを行った 【スポーツナビ】

 今回スペシャルデーをトークンの対象にしようと提案したのは、トークンを管理するフィナンシェの提案だった。

「最初はクラブの方もトークンを使ってどういうことをすればいいのか分からないところもありました。ですので、冠試合(スペシャルデー)を使わせてもらって、そこにトークンの価値を付けていくのはどうかと提案しました。クラブの方にとってもスペシャルデーであれば、普段やっているスキームですからね」(フィナンシェ・田中隆一社長)

 もともと湘南はサポーターとクラブスタッフの距離が近いクラブだが、スペシャルデーをサポーターがプロデュースするような施策はこれまでなかった。

 だが、トークンを使うことで新しい可能性が広がった。コロナ禍でどのクラブも収益が下がっているなか、新たな収入源を作れると湘南の加藤さんは言う。

「今までのスポーツビジネスはスタジアムが中心になっていました。スタジアムに足を運んでくれればチケットが売れて、グッズが売れて、広告がつく。そのベースが崩れてしまうのがコロナ禍です。

 新しい仕組みを考えなきゃいけないと思っていましたが、サポーターに企画の内側に入ってもらうことで新しい収益を作れるのがトークン。クラブスタッフだけで考えるとどうしても、『できるか、できないか』だけで判断しがちになります。フラットな目線を持ったサポーターの意見や、サポーターが欲しているものをダイレクトに聞けるのは大きいですね」

 特に今はサポーターがスタジアムで声を出して応援することもできないし、練習も見学できない。コロナ禍ではサポーターとクラブの関係がどうしても薄まってしまう。しかし、トークンを買うことでクラブへの資金的援助にもつながるし、企画を考えてチームをサポートするという新しい形に広がっている。

 また、今回のスペシャルデーはトークンを持っていなくても楽しめる企画が準備されている。

「トークンを持っていない人も楽しめるスペシャルデーにするため、スペシャルデーで何をしたらいいか、トークンホルダー内でアイデアを出し合っています。トークンホルダーのみなさんに企画会議のメンバーになっていただき、クラブスタッフとオンラインミーティングも開催したりしています」(フィナンシェ・斎藤氏)

「トークンを持っていなくても、当日の来場者はスペシャルデーのオリジナルステッカーがもらえるよう準備しています。また、トークンを持っていない方には無料でトークンを配布する予定です。そのトークンを使っていただき、試合後2日後ぐらいに試合に関するアンケートにも参加していただく企画を考えています。今後はトークンホルダーとの企画会議に、選手にも出席してもらうことを考えています」(湘南・加藤氏)

2.6円から3.6円へ1トークンの価値が上昇

マフラーデザインの投票など、ファン・サポーターが特別な体験を得られ、クラブの決定に深く関われるのが、トークンの仕組みの特徴だ 【(C)J.LEAGUE】

 トークンが面白いのはクラブとのコミュニケーションだけでなく、トークンそのものの価値が上がるところにある。

「販売から1カ月でトークンの価値が上がりました。販売時は1トークンあたり2.6円だったのが3.6円になっています(2021年4月23日時点)。マフラーデザインの投票企画が盛り上がっていて、それに参加したいということで二次流通マーケットで買い求める方がいたことが要因だと思われます。トークン内のコミュニケーションが活性化すればするだけ価値が上がっていくのがトークンなんです」(フィナンシェ・斎藤氏)

 クラブとしては5月26日のスペシャルデーに来場したファン・サポーターに『私もトークンを持って参加したい』と思わせることが、次なる目標となる。そこで求める人が増えればトークンの価値はさらに上がっていく。

 トークンの価値が上がるのは、スタジアムのイベントに限ったことではないと加藤さんは言う。
 
「例えば、トークンホルダーと地域の商店街、スポンサーなどのコラボの可能性もあります。あとはトークンホルダー同士でアウェイ試合の観戦会などのコミュニティーも活性化させたいですね。トークンホルダーの方々からアイデアが出てくれば、いろんな広がりが見えてきます。そうしたことで、みんなでトークンの価値を上げていくことができるんじゃないかと」

 まだ始まったばかりのプロスポーツクラブによるトークンだが、早くも可能性を大きく広げている。次回はスペシャルデー当日がどのように盛り上がったかをリポートしたい。

(企画構成/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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