理想と現実の間で見た“ジェッツらしさ” コロナと戦う「プロジェクト」の裏側

大島和人

選手に届けたファン、ブースターの声

SNSで集められたたくさんのファン、ブースターの声が、選手の目に届く場所に張り出された 【(c)CHIBA JETS FUNABASHI/PHOTO:JunjiHara】

 選手にファン、ブースターの声を届ける「言の葉の翼」もギリギリのタイミングで動き出していた。SNSでメッセージを集めるまではITの力を借りられたが、それを形にするのは手作業だ。こちらは経営企画管理部の平野が作業を背負っていた。

「どうしてもやりたいと実施に持っていき、皆さんから声をいただくためにSNSで募集しました。それを一つ一つ手作業でフォーマットに移しました。業者に出せる時間もなくて、A3サイズで出して、パネルに張っていった形です。ギリギリまで皆さんの声を集めたくて、入力とプリントはほぼ前日ですね」

 選手より1日早く、平野自身がファンのメッセージに力づけられていた。

「私は何百とメッセージを全て読んでいるんですけれど、正直私も涙が出るくらいで……。元気になりましたし、励みになりました。取材をしていただけるとのことで、もう一回振り返ったんですけれど感動して……」

 SNS経由で集まった応援メッセージは約400。リツイートも含めると1000件に達していた。千葉はもちろん、宇都宮ファンからもメッセージを受け付けていた。平野はその全てに目を通し、入力し、社内で印刷をした。そして選手の目に付く場所へ張り出した。

 こんなメッセージが選手の目に届く場所に張り出された。

■ブースターの熱い想いを載せた声炎と、ジェッツを想う魂は、選手とともにアリーナに!Go!Jets!
■やっぱり、BリーグNo.1の千葉ジェッツは最高だ!頑張れ!!この企画&行動力は俺たちブースターの誇り。
■この向かい風の中、もっともっと飛べるように、言の葉の翼の一枚になります! Go Jets!!
■BREXの存在の有難みを今…噛み締めています。最大級の感謝と応援の声を届けます!GO!BREX!!

 2019-20シーズンのキャプテンを務めた西村文男は振り返る。

「控室のある廊下などに貼ってもらって、選手全員が目を通していました」

無観客でもチアとジャンボくんは会場に

「チアとジャンボくんがそろってジェッツです」と芳賀 【(c)CHIBA JETS FUNABASHI/PHOTO:JunjiHara】

 ウイルスへの恐怖、ファンがその場にいない寂しさといったネガティブな感情も選手はあったに違いない。実際に15日の第2戦は審判員の発熱などにより中止されている。それでもファンの声は「翼」に乗って届いていた。

 芳賀はこう説く。

「無観客なのにそこまでやる必要があるかな? とは言われました。マスコットも要らなければ、スタージェッツも無しでいいのでは? というところまで話はいっていました。ただ私が担当しているという事情はあるにせよ、われわれはエンターテインメントで楽しませることを売りにして、それを楽しみにしているブースターがいる。炎とかプロジェクションマッピングはできなくても、チアとジャンボくんがそろってジェッツです」

 15日の第2試合は開始の予定時間を過ぎても、1時間ほど中止を巡るやり取りがバックヤードで続き、バスケットLIVEの中継は間が持たない状況になっていた。芳賀はリアルタイムで中継をチェックしつつ、スタージェッツやジャンボくんと連携して“絵作り”を続けていた。

 芳賀は振り返る。

「2日目のあの時間もずっと中継されていたんですけれど、ジャンボくんがわざわざ画面に映りに行ったり、ダンスをしていて和んだと言ってもらいました。カメラが座席しか映していなかったときに、ジャンボくんのクッションを5分ごとに1体ずつ増やしていったら、これはTwitter上で『ジャンボくんを増やしてほしいわけじゃない』とツッコミが入っていましたね(笑)」

 14日の試合は80-88と千葉の敗戦に終わったが、スタンドに掲出されたメッセージは大きな反響を呼んだ。プロ野球、Jリーグの公式戦もなく、あらゆるテレビ局で大一番のハイライトが流れ、そこにコレオグラフィもワンセットで映し出された。新聞やYahoo!のトップページにも「コロナニショウリ」の写真が載った。

 平野は言う。

「人の思いって大切なんだぞと、そう分かってもらいたいなと思っていました。皆さんの反応があって、選手もすごく見てくれて、いろいろなメディアの方に取り上げていただいた。やってよかったなと思いましたね」

 芳賀はこう説明する。

「全局のレポートが2階から“コロナニショウリ”を映す形から始まっていました。本当にこんな、ジェッツがテレビに出るときもあるんだ……と驚きました。とにかく観ている方々に熱い想いを届けたいと行動したからこそ、あらゆるメディアで取り上げられて、テレビでも流していただけたと感じています。結果的に大きな広告効果があったし、費用対効果的にものすごく高かったので、会社も納得させられたと思いますす」

 二人の努力はこうして実った。しかしこの後も新型コロナウィルスの感染拡大は続き、帰国を希望する外国籍選手も増えていた。結果的に3月15日の試合を最後にリーグ戦は打ち切られ、3月末から例年よりも2カ月以上長いオフがスタートする。選手の協力を得て、千葉は新たな発信に取り組んでいった。

<第3回へ続く>

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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