井上尚弥「アマの素晴らしさを見せて」 プロも認めた五輪代表、大きな収穫を手に

中島大輔

新型コロナウイルスと戦う医療従事者や患者を支援するため、井上尚弥や八重樫東ら歴代チャンピオンたちが集まった 【写真提供:LEGEND実行委員会】

 大音響とライティングで演出される代々木第一体育館のリングに、井上尚弥や比嘉大吾、京口紘人、さらには内山高志、八重樫東という日本ボクシング界をけん引してきた新旧チャンピオンが次々と登場する。2月11日、新型コロナウイルスと戦う医療従事者や患者を支援するボクシングのチャリティーイベント「LEGEND」には豪華絢爛(けんらん)な面々が参戦し、スパーリング形式で3分×3回のエキシビションマッチが開催された。

 選手や関係者、報道陣だけでなく、来場した2548人の観客全員がPCR検査を受け、新型コロナウイルスの感染拡大に万全の注意を払って実施。普段は見られないエキシビションマッチが続き、ボクシングファンを楽しませた。

プロと対戦した五輪代表「普段できない経験に感謝」

対外試合ができない中、東京五輪代表にとって貴重な機会となった(写真左が森脇) 【写真提供:LEGEND実行委員会】

 井上のような絶対王者から10代の進境著しいユース・チャンピオンまでが拳を交えるなか、開幕まで半年を切った東京五輪日本代表に内定しているアマチュアボクサーの二人にとって、「LEGEND」はとりわけ特別な舞台となった。

「RIZINみたいでした(笑)。これくらい観客が多いのは、過去に1回あったくらい。東京オリンピックをやる前に、このような群衆の中で拳を交えられたのは良かったです」

 そう話したのは、2012年ロンドン五輪の村田諒太以来となるミドル級代表として内定している森脇唯人だ。WBOアジアパシフィックスーパーウェルター級王者の井上岳志との対戦では「プロに対してハンデがあるのは嫌だった」と、ヘッドギアを付けずに登場。高校、大学の先輩で、過去に100ラウンド以上スパーリングをやってきたという井上と1年以上ぶりに拳を交え、東京五輪に臨む上で貴重な経験を積んだ。

「井上さんはすごいフィジカルを持っていますし、海外ではああいう選手も多いので、そこをさばけるような展開を自分で作らないといけない。技術面に関して、そういうところが勉強になりました」

プロ無敗の佐々木に対し、技術力の高さを見せつけた岡澤(写真右) 【写真提供:LEGEND実行委員会】

 第5試合では男子ウェルター級で金メダル候補に挙げられる岡澤セオンが、日本スーパーライト級ユース王者の佐々木尽と激突。こちらもヘッドギアを付けずにリングに上がると持ち味のアウトボクシングを披露し、プロ無敗の佐々木に「(自分がジャッジするなら?)岡澤選手ですね」と言わしめるほど技術の高さを見せた。

「すごく大きな会場でやらせてもらえて、普段できない経験をさせてもらったことに感謝しています。東京オリンピックという大きな舞台に向けて、テスト的な意味でも大きなものでした」

 もともと2020年に開催されるはずだった東京五輪はコロナ禍で1年延期、そして森喜朗組織委員会会長の女性蔑視発言など“逆風”にさらされるなか、岡澤は改めて強い決意を明かした。

「いろんなことがあって東京オリンピックはできないんじゃないかという人が多いし、マイナスなことも多いですけど、だからこそこういうイベントでスポーツには世の中に与えるものがあると見せたい。僕らが東京オリンピック開催に向けてできるのは、そういう姿を見せることだけだと思います。少しでも僕らが頑張って、今日この会場に来た一人でも多くの人が『東京オリンピックをやっていいんじゃないか』と思ってくれれば最高です」

実力の違いを見せた井上

2020年10月の試合以来となる姿を一般来場者に見せた井上。まだ決まらない次戦へ弾みをつけた 【写真提供:LEGEND実行委員会】

 第7試合ではWBAスーパー&IBF世界バンタム級王者の井上と元WBC世界フライ級王者の比嘉が対戦。「正直、このスパーに僕にメリットはない。その中でレベルの差を見せないといけない」と話した井上は自身の距離で戦うだけでなく、あえて比嘉が得意とする接近戦も交えて圧倒するなど、実力の違いを見せつけた。

 井上はアマチュア時代にロンドン五輪出場を逃した経験がある。エキシビションマッチの後には、井上自身が東京五輪に臨む面々へこうエールを送っている。

「ハイテンポな、アマチュアらしい素晴らしい試合を期待しています。アマチュアの素晴らしさを東京オリンピックで見せてもらえたらと思います。自分はオリンピックに出られなかったので、そういう意味でも楽しみにしています」

 東京五輪ライト級代表として内定している成松大介は11日朝に発熱して欠場したものの、森脇、岡澤というメダル獲得を期待される二人は、本番まで半年を切るなか大きな収穫を手にした。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント