走高跳・戸邉直人が振り返る2020年 もがき続けたが、最後は良いイメージで

加藤康博

技術面の影響が大きかった“空白の3カ月”

日本記録保持者である戸邉も、2020年は「もがいたシーズンだった」と振り返る 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「もがいた1年だったと思います」
 
 男子走高跳の戸邉直人(JAL)は2020年をこう振り返る。

 2019年に2m35の日本記録を樹立。2020年の東京五輪は「2m40を跳んで金メダル」を目標に掲げていた。しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月に延期が発表。その直後はモチベーションの維持に苦労したという。

「4月から練習拠点である筑波大学の競技場が使えなくなりました。できたのは近くの公園を走ったり、家で筋力トレーニングをしたりということだけ。1年延びて、強化する時間が増えたとポジティブに考えましたが、試合もなくなり、先が見えない状態でしたので、ずっと不安を抱えながら過ごしていました」

 専門的な技術練習ができない期間は約3カ月。この間、走力や筋力の強化だけを徹底する日々が続いた。

 7月に入り徐々に従来通りのトレーニングができるようになり始めたが、すぐに元の練習には戻れなかった。“空白の3カ月”は体力面では重要な鍛錬の時間となったが、技術面への影響も大きく、7月に跳躍練習を行うと、イメージする動きが全くできなくなっていた。それを受け、今年は目先の結果を求めず、1年後を見据えて長期的な強化をしようと改めて覚悟を決め直したという。

今季は記録伸びずも「すぐに切り替えられた」

戸邉は2020年の戦いに、「踏切位置を遠くする」というテーマを持って挑んでいた 【スポーツナビ】

 2019年の日本記録樹立後、戸邉は2m40を目指すための新たな取り組みとして「踏切位置を遠くする」挑戦をしている。助走スピードをこれまでより上げ、得たエネルギーを高さへと変えるために、踏切後、より大きな放物線を描く跳躍にするのが狙いだ。だが、4月から6月までの3カ月間、全く跳躍練習を行えなかったことで、技術的な感覚がまっさらになった。その事実を前向きに受け止め、目指す跳躍を一から作り直すことが2020年後半のテーマとなった。

 戸邉の今季の屋外での試合は2戦のみ。8月のセイコーゴールデングランプリは2m24で3位、10月の日本選手権は2m10で12位に終わった。日本記録保持者として、翌年に五輪の頂点を目指す者として、どちらもさみしい結果なのは言うまでもない。だが先に挙げた理由により、割り切って受け止められた。

「特に日本選手権は踏切位置を遠くする試みの中で、その位置が定まらず全く跳躍にならない試合でした。終わった直後こそ少し落ち込みましたが、技術的な課題に向き合うプロセスの中では必要な時期だと考え、すぐに切り替えられました」

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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