走高跳・戸邉直人が振り返る2020年 もがき続けたが、最後は良いイメージで

加藤康博

曲線を短くする助走がハマりだす

スポーツバイオメカニクスを専攻しながら、これまでも幾度となく跳躍へのアプローチを変えてきた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 光が見えたのは日本選手権後から。走高跳の助走は直線に走り出し、最後の数歩は曲線を描いて踏み切る。これまで戸邉は直線部分を短くし、曲線を長くとって助走スピードを上げようとしていたが、それを逆にし、曲線を短くする助走へと変えた。すると踏切位置を遠くした跳躍にハマりだした。

「日本選手権で失敗したので、違うアプローチをしてみたんです。そうしたら踏切を遠くする跳躍とマッチして、急に良い動きができるようになりました。ずっと試行錯誤していたことと、ふとしたひらめきがうまく組み合わさった感覚でした」

 戸邉は自身の特徴として「新しい技術をどんどん取り入れる点」を挙げる。筑波大時代から世界一を目指し、海外で積極的に試合や合宿を行ってきたが、そこで世界のトップレベルとの差を痛感した。今までの取り組みでは日本記録は出せても、それ以上は難しいという考えから、大学院に進み、スポーツバイオメカニクスを専攻しながら走高跳の技術を追求。博士課程修了後の今も、競技の練習と平行して研究を続けている。

 それに伴い、自身の跳躍フォームや助走歩数を幾度となく変えてきた。そうした挑戦を繰り返した結果、技術的な引き出しが増え、そこに自信が生まれてきた。今回の助走の取り方を変えたことについても、そうした積み重ねがあったからこそ、すぐに対応できたのだろう。

 この引き出しの多さは試合でも武器になると、戸邉は考えている。

「走高跳はその日の自分のコンディションはもちろん、天候や競技場の雰囲気など、外的な要因に影響されやすい競技です。試合が始まり、高さを求めていく過程で、状況に合わせて技術的な面で微調整をしていく必要があります。そこで修正する力は他の人よりもあると思います」

「必ず2m40を跳んで金メダルを」

 2020年のオリンピックは東京での開催が決まる前から、勝負の大会として見据えており、そこにかける思いは誰よりも強い自負があった。延期を経験し、その思いはより強固なものへと変わったと自覚している。

「今は東京で結果を出すことしか考えていません。必ず2m40を跳んで金メダルを取ります」

 決意を語る言葉にも、自然と力がこもる。

 2021年は2月の大阪室内で室内シーズンの幕を開ける予定だ。3月に予定されていた世界室内(中国・南京)で再度日本記録更新を狙うつもりだったが、2023年開催に向けて再度延期(当初は2020年開催予定だったが、コロナ禍により延期されていた)になるなど、今後の状況はいまだ不透明。だが、こうした状況も2020年に経験済みで動揺はない。屋外シーズンの予定も状況を見ながら決めていく。

 もがき続けた2020年だったが、最後に目指す跳躍の形が見えてきた。あとは完成形を目指すだけだ。

「思い返せば、さまざまな経験もでき、技術的な成長も得られた意義のある1年だったと思います」

 良いイメージで2020年を締めくくれることに、戸邉は手ごたえを感じている。

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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