連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

スマホから覗き見る巨人の“リアルな裏側” 「たまたま撮れた」その一瞬を逃さぬ執念

小西亮(Full-Count)

読売巨人軍ブランドコミニュケーション部の柳舘俊さん。球団の公式YouTubeにて“独占撮影”した映像で選手の素顔や知られざる裏側を発信している 【写真提供:読売巨人軍】

 思わず、身震いした。「とんでもない映像が撮れた…」。カメラは、ブルペンで投球練習するエースの姿を捉えていた。自らが投げる球の球速を宣言する。「140.3キロ」。捕手のミットにおさまった球を計測すると「140.3キロ」。菅野智之投手が、小数点以下も自在にコントロールする姿は、動画公開から7カ月で360万回再生を突破した。

 撮影したのは、読売巨人軍ブランドコミュニケーション部の柳舘俊さん。球団の公式YouTubeの撮影、編集、投稿業務を担う。報道陣さえ入れない場所で、“独占撮影”して選手の素顔や知られざる裏側を発信。新型コロナウイルス感染拡大で世の中が一変した今季、その存在はさらに重要度を増していった。

大切にする「ファンの満足」と「選手の価値」

 YouTube、Twitter、Instagram、Facebook、LINE、TikTok。今や生活の一部となりつつあるサービスで、巨人の魅力を発信する。昨年12月に球団内に新設されたブランドコミュニケーション部。サービスごとにメイン担当者を置き、それぞれの特性に合った動画や写真、お知らせを投稿していく。

 Twitterなら即時情報。「巨人の今を知る」。試合のスタメンや結果だけでなく、試合前のナインによる円陣の様子もファンに届ける。若手選手の笑いを誘うギャグや、先輩選手のツッコミ…。“硬”だけでない“軟”も切り取り、選手たちを多面的に知ることができる。

「ただ単にインタビューや練習を撮るのではなく、なにかひとつ目線を持って撮影、編集をしようという意識は、メンバーで話し合って決めました」

 柳舘さんの担当はYouTube。ブランドコミュニケーション部発足時のチャンネル登録者数は7万人ほどだった。今年のうちに30万人まで増やそうと目標を設定。2月に球春を迎え、キャンプでの選手や首脳陣の姿を追った。4分ほどのコンテンツを仕上げるのに、3〜4時間費やし、完成度を高める。

「この動画を出すことで、選手の価値は上がるのか」

 それが投稿の基準。裏返せば、ファンにとって満足する有益なコンテンツであるかどうか。「情報発信としてファンの人とチームをつなぐ有効な手段」。部署のメンバーたちにとってのモチベーションは、新型コロナによって使命感へと昇華していった。

 チームは一時、全体練習がストップ。当初の3月20日の開幕は延期された。新聞、テレビ各社の報道陣にも取材制限が設けられる中、自分たちの手でファンに直接届ける手段を考えた。「どんな内容でも、毎日投稿・更新することは目標にしていました」。毎日の試合に追われる普段だったらできない企画も実施。Instagramでのライブ配信では、インタビューとは違う選手らの等身大の発言がファンの好感を得た。

 ブランドコミュニケーション部のメンバーには、暗黙の共通認識がある。

「カメラを持ってグラウンドに出たら、とにかく長い時間カメラを回す。粘り強く撮影する」

 選手らにリクエストして“絵づくり”をすることはない。「狙って撮った映像はあまりなくて。たまたま撮れる映像がすごく面白いっていうのが現状です」。だからこそ、いつどこで何が起きるか分からないその一瞬を撮り逃さないため、常にカメラを構える。「みんな練習中はRECボタンを切っていないんじゃないですかね?」。そう言う柳舘さんも、常に実践している。

サービス精神豊富な首脳陣、選手への感謝

練習中であっても選手自らが積極的にアプローチしてくれて、「撮るな」と言われたことは一度もないという。そうした被写体となる選手たちへの感謝は尽きない 【写真提供:読売巨人軍】

 結果を残そうと汗を流す選手。頭を悩ませて指示をとばす首脳陣。「練習の邪魔をしないということを大前提に撮っています」と言うが、そんな心がけも杞憂(きゆう)に終わるほど、選手らは好意的に応じる。

「今のインスタいけるんじゃないですか?」「ここから撮るとすごい映像が撮れるぞ」

 そう言って、むしろ積極的にアプローチしてくれる。「撮るな」と言われたことは、一度もない。菅野の投球映像も、間近で撮影することを許してくれたからこそ、驚きの瞬間を捉えることができた。チャンネル最大の“バズり動画”となり「撮影中に身震いしたんです。菅野投手のすごさが、ファンの皆さんに届けられたのが嬉しい」と振り返る。被写体となる選手らに感謝は尽きない。

「僕ら以上に、カメラの向こうにはファンの皆さんがいることをとても理解してくれています。SNSを有効に使って発信していこうと常に考えてくださっています」

 昨年7月に番組・映像制作会社「日テレ アックスオン」から巨人軍に出向した柳舘さん。「テレビのことは僕が一番知っているぞと思っていたんですが。入ってみたら、テレビ界の大先輩がいらっしゃって…。毎日勉強させてもらっています」と頭をかく。原辰徳監督や元木大介ヘッドコーチ、宮本和知投手チーフコーチ…。これまで多くのメディアに露出してきた“大ベテラン”たちのサービス精神に助けられ、動画がより魅力的になる。

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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