田澤ルール撤廃が日本にもたらす影響 アマ選手の米挑戦は加速するか!?

阿佐智

ドラフト当日、会見場も用意されていた田澤だったが、最後まで名前を呼ばれることなく、会見場にも姿を見せることはなかった 【写真は共同】

【連載】田澤ルール撤廃後の日本球界を考察・第3回

 今ドラフトでの田澤純一の指名は見送られた。これについては世間でさまざまな意見が飛び交っている。日本の独立リーグでリリーフとして16試合に登板、2勝を挙げたものの、16イニングで防御率3.94という数字は、来年35歳という年齢も考えると、ドラフトで指名されるには厳しかったかもしれない。仮に「助っ人」として考えてみても、メジャー通算9シーズン89ホールドの実績はあるものの、2017年以降の防御率は5点台を越え、昨年はマイナー暮らしだったベテランを獲得するチームがあるかと言うと、それも厳しかったのだろう。

「田澤ルール」は撤廃されたが、結局今回はそれが生かされることはなかった。彼のような実績のある選手に「新人選手選択会議」という場はそぐわなかったとも言える。「ルール」撤廃により、アマチュアトップ選手にとって、「メジャー挑戦」へのハードルが下がったのは間違いない。その結果として、今後「ドラ1」候補がNPB(プロ野球)を経由せずメジャーの舞台に立つ例が増え、国内野球の空洞化が進むようなことはならないのだろうか。

日本球界の報酬はメジャーとマイナーの間

 現在、世界の多くの野球シーンで投手不足が深刻化している。素材に負うところの多い速球派投手がMLBに青田買いされているからだ。プロリーグの報酬の低い台湾やメキシコでは、パワーピッチャーの卵がプロ入り前にアメリカに流出していくため、国内リーグの「打高投低」に歯止めがかからない。しかし、現在のところ、日本球界からアメリカへの「筋肉流出」(自国の才能ある選手が他国へ流出すること)が急速に進むとは考えにくい。

 世界第2のパワーハウスであるNPBの報酬は、ファームであっても、マイナーリーグのそれよりもかなり高い。大まかに言えば、メジャーとマイナーの天と地ほども離れた待遇の間にNPBのそれがすっぽり収まる。今回、日本を出る前の立場が各々違った前田勝宏(NPB所属)、川畑健一郎(高卒)、井戸伸年(社会人野球経験者)の元マイナーリーガー3人に話を聞いた(連載第2回「前田勝宏らメジャー挑戦経験者に聞く 田澤ルール撤廃後の影響は?」/コラム下段の関連リンクを参照)が、「田澤ルール」撤廃後も、トップアマチュアの流出が止まらないという状況にならないだろうと口をそろえる。

 NPBドラフトを拒否した田澤にレッドソックスが提示した条件は、当時のレートで3年総額3億8000万円のメジャー契約だった。MLBからそれだけの契約を提示されるアマチュア選手はそうそう出るものではない。当時の田澤はNPB入りしても、即戦力として2ケタ勝利は固いと言われていた。

 契約社会のアメリカでは、「初期投資」、つまり契約金の少ない選手にはチャンスはなかなか与えられない。前回紹介した、ルーキー級でプレーした川畑と井戸のアメリカでの1年目の出場機会を見てみると、社会人野球出身だが自らの売り込みでなきに等しい契約金で入団した井戸より、高卒だがスカウトされ1000万円を超える契約金を提示された川畑の方がはるかに多かった(ともにルーキーリーグで川畑が39試合、井戸は21試合に出場)。

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著者プロフィール

世界180カ国を巡ったライター。野球も世界15カ国で取材。その豊富な経験を生かして『ベースボールマガジン』、『週刊ベースボール』(以上ベースボールマガジン社)、『読む野球』(主婦の友社)などに寄稿している。

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