連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

最も近くで伝え続けた巨人2連覇の軌跡 問われた広報力…コロナ禍を成長の糧に

小西亮(Full-Count)

異例の優勝対応…夢の中で2度実施も

夢の中でも優勝対応を行っていたという阿南さん。例年と異なる対応に追われながらも、それでも表情は生き生きとしていた 【スポーツナビ】

 チームは開幕から勝利を重ね、気づけば首位を独走。広報として、先を見据えた準備にも取り掛かった。優勝決定時の報道対応は、昨年のケースには当てはまらない。「多くのメディアの皆さんに発信してもらいたい一方で、選手のことも新型コロナ感染から守らないといけない。その間に挟まれながらの葛藤はありましたね」。コロナ禍で迎える優勝は、誰もが初めてだった。

 胴上げや記者会見、祝勝会……。安全面を最優先に、実施の可否も含めて、何度も検討を重ねた。いつ、どこで優勝を迎えるかも分からず、さまざまな想定が必要だった。本拠地の東京ドームで決まった場合は、換気に優れたグラウンドで会見を行うことを決定。その後のテレビ出演も、撮影映えを考えてそのままグラウンドで実施することを提案した。

「安全面だけでなく、テレビの映り的にも面白いと感じました。昨年のような広報業務では、グラウンドでやるような発想は生まれなかったかもしれません。その点では今年の経験は生きているかもしれませんね」

 ビジターで決まった場合も想定し、フロアごと貸し切りできるホテルの会場を押さえ、感染防止対策を徹底。監督や選手がスムーズに会場入りできるよう手配した。テレビ各局の中継車の駐車スペースや電波状況も事前に把握。会見後の生中継出演は、各局の要望を聞きながら無駄のないように選手の人数や時間を事細かく配分した。A3判の用紙には、びっしり分刻みのスケジュールが記されている。

「夜寝る前に、忘れないようにメモ帳に書いて。ちょっと寝たと思ったら別のことを思い出して、また起きて書いて……。そんなことしていたら夢の中で2回ほど優勝対応をやりました(笑)」

 メモ帳の「To Doリスト」は30項目ほどにのぼり、ひとつずつ、つぶしていく。現役時代とは全く異なる多忙な生活。それでも阿南さんの表情は、不思議と生き生きしている。

「若いうちは、忙しい方がいいのかなと思っています。毎日勉強になるし、いろんな考えが持てる。『もっとうまくやれるんじゃないかな』といつも思いますし、自分のスキルアップにもつながるんですよね」

試合を見に来られないファンの思いに応える

試合を見に来られないファンの思いに応える広報活動は、今後の巨人の情報発信にも生きてくる 【写真は共同】

 すぐ近くに“生きた教材”がいることがありがたい。原監督や元木大介ヘッドコーチ、宮本和知投手チーフコーチらがメディアに向けて発する言葉に、報道陣以上に聞き耳を立てる。

「僕だったらこんな言葉は絶対に出てこないなと思いますし、自然と空気が変わるし変えられる。自ら話題を提供する環境作りはさすがだと感じています」

 エースの菅野智之投手ら主力選手も、若手に対して「自分から発信できるようになりなさい」と促す。そんな“伝えるプロ”たちの姿は、広報のお手本になっている。

 コロナ禍で一変した環境に直面し、あらためて見つめ直すことができた存在意義。「こちらから提案したり、選手といろんなことを話したりして、もっと発信していかないといけないなと」。お膳立てをする役目を担う一方で、身に染みて思うことがある。

「コロナ禍で練習や試合を見に来られないファンの方々を思い、試合前の取材も率先して受けてくれる。その中の言動で、自分が勉強させられた思いでした。僕ら裏方はチームを支える存在でなければいけませんが、実は支えられてもいたんだなと。広報業務は忙しいことも多いが、毎日を成長の日々にしてくれているのは楽しくてしょうがないんです」

目の前に迫る坂本の2000安打達成、そして日本シリーズ……特別な時間は次への活力に変わっていく(代表撮影) 【写真は共同】

 巨人に移籍した2013年から2年連続で優勝を経験した阿南さんは、広報として現場に戻った2019年からまた2年連続でこの特別な瞬間に立ち会うことができた。

「いやー、もう、なんにも出てこないですね!」

 優勝の夜を作り上げ、がらんとした東京ドームのグラウンドでさまざまな感情が入り混じる。1日を振り返れと言われても、すぐに言葉は出てこなかった。「試合後の流れも良かったですし、選手も協力してくれたことには感謝です」。まずは安堵(あんど)が大きかった。

 目立つマスク姿、超満員になれないスタンド、手袋での胴上げ、グラウンド上での会見……。印象的なシーズンは、さらに日本シリーズへとつながっていく。目の前には、坂本勇人の2000安打の大記録も迫る。決して疲労は顔に出さない。チームと一緒に過ごす特別な時間を考えると、自然と奮い立つ。

 深夜1時。東京ドームのカクテル光線に照らされながら、阿南さんはあらためてかみ締める。

「こんな忙しいのはありがたいです。楽しいですね」

 次の歓喜に備え、まだまだ走り続ける。

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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