海外初挑戦の室屋成が語る胸の内 ブンデスよりも「Jリーグの方が戦術的」
海外初挑戦となる室屋成に、その胸の内を語ってもらった 【写真提供:UDN SPORTS】
昨季のハノーファーはスタートダッシュに失敗し、監督交代も相まって中盤以降は勝ち星を積み重ねたものの、1部へ自動昇格できる2位以内に入れずに仕切り直しを強いられた。ここ20年間でブンデスリーガ1部在籍16シーズンを誇る名門クラブとしては、今季の1部昇格は至上命題になる。そんな究極のタスクを科せられるチームで、今季新加入の室屋成はスタメンフル出場を果たした。まるで何年もこのクラブに在籍しているかのように淡々とプレーしていた彼はしかし、その胸の内でいくつかの葛藤があったという。
室屋が考える、ブンデスとJリーグの違い
カールスルーエ戦での室屋は試合開始から3-4-3システムの右サイドアタッカーを務めたが、試合中のシステム変更で4バックの右サイドバックへと役割が変わった。室屋はJリーグのFC東京や各年代の代表カテゴリーでサイドアタッカー、またはサイドバックと多岐に渡るポジションでプレーしてきたため、現チームで与えられるタスクもスムーズにこなせる。しかし、日本からドイツへ渡ったばかりの今は、この環境へそれなりの順応が必要だとも認識している。
「僕はこれまで長い間Jリーグでプレーしていて、今回初めて違う国でプレーすることになったんですけども、このブンデスリーガでは戦術やプレーの仕方が少し違うと感じています。僕の印象ではJリーグの方が戦術的で、ポゼッション志向で、周りにたくさんのサポートがいる状況が多い。一方で、ドイツでは周囲との距離が遠くて、ロングボールなども多用される。選手との距離が遠い分、スピード感があって、特に前に入るスピードが速い印象を受けました」
これまで幾多の日本人選手がドイツ・ブンデスリーガでプレーし、そのファーストインパクトを体感してきた。ハイフィジカル、ハイスピード、個人勝負など、各種ファクターの捉え方はさまざまだが、今の室屋はブンデスリーガのプレー傾向を前向きに受け止めようとしている。
「ドイツで戦う覚悟というのは特に抱いていないですけども、自分の中では『なんでサポートがないんだ』と感じるよりも、この状況を受け入れなければならないと思っています。この国のサッカーに適応しなければならない。それが大前提で、その点では、まだまだそのようなシチュエーションでボールを失ってしまうところがあるんですよね。ただ、そこは時間と経験、試合を重ねる毎に良くなっていくのかなとは感じています」
アグレッシブなスタイルを掲げるハノーファーのサッカースタイルの中で、サイドエリアのポジションを任される室屋にも積極的なプレー関与が求められている。
「基本的に、今の自分たちのやり方は前からプレスを掛けていくものなんです。だからサイドバックでもチャンスがあれば相手サイドバックにプレスを掛けに行くくらいの距離感、積極性を求められます。そこでは単純に1対1の場面、球際での攻防が生まれるシチュエーションが多いので、その強度は求められますよね」
新型コロナウイルスという未知なる脅威が襲った2020年は、全世界の歴史に刻まれる重要な年度になるだろう。サッカー界も当然さまざまなダメージを受け、今でもその対処に追われている。そんな異質なシーズンの最中に、室屋は日本からドイツへの旅立ちを決めた。
「ひとりのサッカー選手としてだけでなく……」
FC東京は「本当に素晴らしいクラブ」と何度も口にしていた室屋。心残りはタイトルを獲得できなかった事だと言うが、近い将来タイトルをつかみとれると語った 【Getty Images】
「FC東京は本当に素晴らしいクラブで、選手のことを思ってくれるチームだと思っています。自分自身、東京という街で、充実したサッカー環境の中で生活が送れて、文句など何一つないチームで長い間プレーできたことは、とても幸せでした。ただ、自身がFC東京に在籍している間にタイトルを獲れなかったという悔しい思いもあります。それでもFC東京は今も次々に若い選手が台頭していて、その強さをキープできていますから、近い将来に必ずタイトルをつかみ獲れると思っています」
FC東京からハノーファーへの移籍を決断した動機には、室屋自身の考えが投影されている。
「単純に海外で生活してみたい思いがありました。長いこと日本でプレーしていた中で、実際にハノーファーからオファーが来たときに、ひとりのサッカー選手としてだけではなくて、人間としても海外で暮らすことの有意義さを感じたんです。異国に行ってさまざまな文化や言語に触れる機会というのは、普通に働いていたらなかなか得られない。サッカー選手でもそのようなチャンスを得る機会は少ないわけで、実際にオファーが来たときに『行きたいな』と感じたんです。だから、迷うことなく決断をしましたね」