100mはケンブリッジ、桐生の9秒台決着も “異例”の日本選手権に懸ける思いとは
今年の日本選手権男子100メートルは、日本記録保持者のサニブラウンが不参加。優勝争いは桐生(左)とケンブリッジ(右)の“2強”対決か 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
世間の注目を多く集めるのは男子100メートルだろう。だが、大会前の盛り上がりや緊迫感は例年ほどではないように映る。
要因はいくつか考えられる。東京五輪が来夏に延期となったため、日本代表の選考会にならないこと。五輪の参加標準記録(100メートルは10秒05)と、五輪出場資格に関係してくる世界ランキングの対象期間ではないこと。2017年、19年と過去2度優勝のサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)が出場しないこと……。
では、この異例の大会でスプリンターたちは何を懸けて走るのか。
復活Vを狙う今季好調のケンブリッジ
16年リオデジャネイロ五輪400メートルリレーで銀メダルを獲得したケンブリッジは、その後、故障が続き、思うような走りができていなかった。
再浮上のきっかけとなったのは、フィギュアスケートの高橋大輔をかつて担当したトレーナー、渡部文緒氏と今季からタッグを組んだことだ。片足でのスクワットなど体の左右のバランス、上下半身の連動を意識したメニューを新たに導入。「使える筋力を増やす」ことに注力してきた。体重も2キロほど絞れた。その甲斐あって、定評があった後半の強さに加え、今季はレース前半から滑らかに走れている。
今季は3年ぶりに自己ベストを更新し好調のケンブリッジ。昨年の日本選手権8位の悔しさを晴らせるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
昨年の日本選手権決勝は最下位の8位。「一番後ろを走るのは久しぶりで、悔しいシーズンだった」。4年ぶりに日本一の称号を手にできれば、今の取り組みへの確信をより深め、五輪シーズンに向けて大きな弾みになるはずだ。
気象条件次第では日本記録更新も
ただ、本人は「レースの中盤から後半は良いけど、スタートから20〜25メートルがそこまで出てない」と課題を挙げる。昨季はスタートから力を使い過ぎて中盤から伸びきれなかったため、今季は抑え気味で入っているという。「もう少し(序盤で)出しても今年は最後まで持つかな。25メートルまでパワーを使いながら中盤以降につなげたい」。ギアをうまく上げ、最高速度を一段高められるか。
桐生の今季の口ぶりからは、明確に「世界の準決勝」を念頭に置いていることがうかがえる。昨年のドーハ世界選手権は準決勝を10秒16(追い風0.8メートル)の組6着で敗退。決勝進出ラインまで100分の5秒だったことが、その意識につながっているのだろう。
すでに五輪の参加標準記録を切っており、代表選考においては有利な位置にいる。コロナ禍で極端に短い今シーズン。「1本1本、大事に走りたい」と何度も口にしてきたが、東京五輪の決勝を目指すうえで、この日本選手権でベストなレースを表現できるか注目だ。
ケンブリッジ、桐生とも気象条件次第では9秒台決着、サニブラウンの日本記録9秒97の更新も視野に入る。