連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

「色は付けない」未来思う“引き算”の指導 ジャイアンツアカデミーは雰囲気を大切に

小西亮(Full-Count)

進化し続ける野球の技術に対応できるように

1980年代後半から90年代前半にかけて活躍した岡崎さん。その頃からみても野球の技術は常に進化しているという 【写真は共同】

「なるべく悪い癖がつかないように。変な色がつかないように、真っ白のままいかせてあげたい」

 そう岡崎さんは指導方針を表現する。間違った動きが染みつけば、いずれ体に無理がきてけがにつながる。「なるべく先にいって困らないように。自分なりの色をつけていくのは中学、高校時代ですから」。ともすれば控えめな指導にも映るが、自身の経験から導き出した答えでもある。

 同じ野球でも、時代の移ろいとともに変わってきた。

「僕らが現役の頃と、今の選手とは感覚が全然違いますよ」

 バットひとつとっても違う。かつては一流の打者ほど重く長いバットを振っていたが、今は軽いバットが主流。手元で小さく曲がる変化球の登場によって、求められる役目が変わってきたからだった。

「技術は常に進化している。その中で、今アカデミーで教えている子どもたちが10年後や15年後に野球をやったとき、果たして今の技術が通用するのか。そう考えると、僕らが色を塗ることはできない。ただ、少なくともこれをしたらダメというものはある。そこだけは回避させてあげたいなと」

 足し算でなく、引き算の指導は、未来を考えてのことだ。

 少子化が叫ばれて久しく、野球人口の減少は喫緊の課題として直面している。さらにスポーツだけでなくさまざまな娯楽があふれる世の中で、子どもたちが野球と触れ合う機会を提供するアカデミーの存在は、より重みを増してくる。興味を持ち、見る楽しさやプレーする喜びを知ってもらう“玄関”として、日常生活のすぐそばにある。

 コーチの中に元プロ野球選手がいるのも「興味をもってもらうという点で、大事な存在だと思います」。岡崎さんは、現役を引退して間もない立場で先生役を務める重要さを説く。アカデミーでは現在、巨人で守護神も担った西村健太朗さんらが指導にあたる。もちろん、一流の選手が子どもを教えるのがうまいわけではない。

「ただ、同じことを言ったとしても、誰が言ったかで受け止め方が違うことがあるのも事実」

 華やかな舞台で戦ってきた強みを、指導の場で還元する。大学などで指導論を学んできた他のコーチらと手を取り、適材適所でスクールを活気づけていく。

「野球を通して、子どもたちが元気に育っていくということを実感してもらう。小さなことかもしれないですが、その体験を増やしていければ」

 ひとつひとつの積み重ねが、創設87年目を迎えた球団の土台を強固にしていくと信じている。巨人のユニホームだけを着てきた岡崎さんは、その使命があるとも思っている。目指すべきアカデミー像を語り始めると、一段と言葉に熱が帯びた。

3月から約3カ月間休校していたアカデミーだが、現在は子供たちが元気にグラウンドで汗を流していた 【撮影:竹内友尉】

「『雰囲気』というのがすごく大事。非常に抽象的な言葉ですし、理屈的にどうやったら作れるかというのも難しい。みんなのケミストリーが、雰囲気を作る。眉間にシワを寄せて一生懸命やればいいってもんじゃないし、ただヘラヘラ笑っていればいいというものでもない。いい雰囲気じゃないと、いい人は育たない」

 2軍監督時代もそう思ってやってきた。その場にいる人たちに目を配り、それぞれの気分や状況を判断して、誰もが心地いい空気を醸成していく。

「雰囲気を作れる人はすごい。これは自分の永遠のテーマでもあるんです」

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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