群雄割拠の様子を見せる110mハードル 「3強」が集まる日本選手権の行方は?

加藤康博

全日本実業団は高山が制するも……

全日本実業団で優勝した高山(左)。ただ「スタートも決まらず、後半も垂れてしまった」と調子自体は上がっていない 【写真は共同】

 今季3度目の対決は、日本記録保持者の“不戦勝”となった。

 全日本実業団対抗陸上3日目に行われた、男子110メートルハードル。13秒27の日本歴代2位、今季日本リスト1位の金井大旺(ミズノ)は決勝を欠場。13秒25の日本記録を持つ高山峻野(ゼンリン)が13秒51(追い風0.1メートル)で危なげなく制し、2年ぶり2度目の優勝を果たした。

「スタートが決まらず、バランスも崩れ、後半もタレてしまった。ただ良くない中でのこのタイムは満足しています」と、高山は落ち着いた表情でレースを振り返った。

 昨年の日本選手権を日本タイ記録(当時)の13秒36で制し、その直後に13秒30、13秒25と立て続けに日本記録を更新。ドーハで行われた世界選手権では予選を日本人国外最高記録の13秒32で走り、準決勝でも途中でハードルに足をぶつけてバランスを崩すまでは鋭い加速でリードを奪い、この種目、日本人初の決勝進出への可能性を見せた。

 しかし、今季はコロナ禍による自粛期間が明けてからも、ずっと練習でもスタートが決まらないと言う。また、肩を痛めた影響からウエイトトレーニングを最大出力で行えないこともあり、練習自体が積めていない。8月に行われたセイコーゴールデングランプリ、Athlete Night Games in FUKUIと2戦続けて金井の後塵(こうじん)を拝している。この日の決勝後も「金井君が決勝を棄権と聞いて嬉しくて、気楽に走れました」と、ジョークとも本気とも取れる言葉を残した。

「日本選手権は金井君も仕上げてくるはず。そこについていって、自己ベストを出せるようにしたい」。第一人者は控えめなコメントで大一番を見据えた。昨年の日本選手権では2位に0.002秒差で競り勝つなど、大舞台での集中力と勝負強さを備えている。10月1日から新潟で行われる日本選手権に向け、残り2週間でどこまで仕上げてくるかに注目だ。

日本歴代2位の金井は今季絶好調

決勝は棄権したものの、予選では大会新記録をマークするなど絶好調の金井 【写真は共同】

 一方の金井は予選で13秒38と大会記録を更新し、今季の好調さを改めて印象付けた。決勝は欠場したが故障によるものではなく、チームを通じて「予選は想定より速いタイムで走れました。今のコンディションに多少の不安があり怪我のリスクや、日本選手権へのピーキングの観点で決勝を回避させていただきました。日本選手権に向けて良い状態にできるように頑張りたいと思います」とコメントを出した。2018年に14年ぶりの日本記録更新となる13秒36を出したものの、昨年のシーズンベストは13秒51に留まった。しかし年が明けてからは絶好調で、2月の日本選手権60メートルハードルで7秒61の室内日本新を樹立。また100メートルも10秒41までタイムを上げている。110メートルハードルでも8月のシーズンインからすでに3度、自己ベストを更新。調子の良さは疑うべくもなく、日本選手権にもコンディションを合わせてきそうだ。

 また2人の争いに加わりそうなのが、昨年の日本選手権で2位に入った泉谷駿介(順天堂大)だ。前回は高山に同タイムで敗れるも13秒36で走り、一時は金井、高山とともに日本記録保持者として名を連ねた。今季は故障が続き、9月の日本学生選手権は欠場したが、抜群のダッシュ力で序盤からリードを奪うスタイルが戻れば、主役になる可能性を秘めている。

 2年前から活況が続いている男子110メートルハードル。優勝候補の状態は三者三様だ。日本選手権は2年続けて日本記録での優勝争いとなっているだけに、今年も熱い戦いを期待したい。
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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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