飄々と淡々としかし熱く マリーンズ新時代のエースが悲願の優勝へと導く

千葉ロッテマリーンズ
チーム・協会

【マリーンズのエース 石川歩】

  ペナントレースは終盤に突入した。悲願のリーグ優勝へ。目の前にそれはある。これまで以上に緊迫した空気が漂う中、エースはいつだって飄々としている。石川歩投手。ペナント終盤になって変わったことと言えば髭の濃さぐらいか。いつも変わらず冷静にマウンドに上がり、淡々とアウトを重ねる。痺れる試合が続く中、その背中はなんとも頼もしい。

 思えばルーキーの時から飄々としていた。ドラフト指名選手の仮契約が完了した際に行う記者会見にはこれまで沢山、立ち会ったが、その中でも忘れられない出来事の一つが、2013年12月に都内ホテルで行われた石川(東京ガスからドラフト1位で入団)の会見だ。

 会見が始まるや、某民放テレビ・キー局のスポーツディレクターが手を挙げた。「石川選手の夢を教えてください」。よくあるオーソドックスな質問である。予想される回答は「〇〇選手のような息の長い選手を目指したい」、「マリーンズといえば私といってもらえるような選手になりたい」などである。もしかしたら目先の目標として「まずは新人王を狙いたい」と答えるかもしれない。しかし、石川は違った。「特にはありません!」。キッパリと言い放った。質問をした方も、予期せぬ回答に沈黙。まだ始まったばかりの会場は凍りついてしまったのをよく覚えている。

 球団との契約が完了したばかりで、プロのユニホームに初めて袖を通した後の夢にあふれている時。まさか夢がないとは・・・。司会をしていた私もどうフォローすればいいのか分からず、とりあえず作り笑いを浮かべてみたものの、心の中では頭を痛めたものである。しかし、今思うと、あれこそがこの男の真骨頂だった。2017年、侍ジャパン日本代表監督の小久保裕紀監督はWBC(ワールドベースボールクラシック)の初戦の先発を石川に任せた理由を記者会見で聞かれ、「彼は飄々としているというか、つかみどころがない選手。そういう自分らしさを試合でも出して欲しい」と話しているのをテレビで見た。確かに私もこれまで沢山のプロ野球選手と出会い、一緒に過ごしてきたがこういうタイプは初めてだ。プロ野球選手独特のギラギラしたもの、ガツガツしたもの、自分に対する確固たる自信、プライドがまったくこちらに伝わってこない。超体育会社会の中において、完全な草食系。少し怒ると寝込みそうなタイプである。ただ、この極度のマイナス思想で自分に自信がないからこそ必死に努力し、練習をし、日々、色々なことに工夫をこらしていることで、石川はどんどん成長し、結果を残し、本人自身が思ってもいなかった次元までたどり着いているような気がしてならない。

 「WBCは第1回目も2回目も友達とテレビで見ていましたね。自分?まさか。その一員になる日が来るなんて夢にも思っていませんよ。奇跡です。だって、ボクですよ!ボク(笑)もし高校時代のボクが、それを聞いたら腰を抜かすと思います」

 WBCを目前に控えた石垣島キャンプ中に雑談で本人と侍ジャパンの話題をするとそう答えた。高校野球で特に実績があるわけではない。高校3年夏の富山大会は三回戦敗退。その試合は五回を投げて降板した。だから高校を卒業すると興味のあった服飾系の専門学校に通いたいと考えていた。ただ、周りの支えと縁があって中部大学で野球を続けることが出来た。そしてコツコツと日々を充実させたことで社会人野球の名門、東京ガス入り。そこからマリーンズで新人王(2014)、最優秀防御率(2016)、侍ジャパン。それこそ夢のようなシンデレラストーリーを歩んでいる。それでも本人は今でも、自分に自信がなく、毎日がプレッシャーに押しつぶされそうになりながら必死に生きている。だから、夢なんて考える余裕なんてないし、ましてや人前でそれを公言することなどできないタイプなのである。余談が、高校三年夏の大会後は富山にある中華料理店でアルバイトをしていた。メインの仕事は皿洗い。時々、餃子作りを手伝った。大学に入る前の数カ月間、アルバイトをしていた。そんな時間は結構、楽しかったと本人は言う。

 「ラーメンも好きですけど天ぷらが大好きですね。天ぷらに関する分厚い本があって、それを読んでいる時間がいろいろなことを忘れられて好きです」

 キャンプのホテルの部屋を訪ねた際、そう言って、分厚い天ぷらの書物を見せてくれた。調理の仕方から食べ方からいろいろなことが書かれていたが、私はまったく興味がわかず、とりあえず「へえ〜」と相づちだけうたせてもらった。何度も言わせていただくが、これまで数多くのプロ野球選手と出会い、一緒の時間を過ごさせていただいたが部屋で一冊の天ぷらの本を毎晩、読みふけっている選手と出会ったのは初めてである。

 6月19日のホークスとの開幕戦(PayPayドーム)こそ敗れたものの、その後もチームの中心としてマウンドに立ち、ここまで6勝2敗で防御率は3.81。石川の絶対に崩れない投球がチームに勢いをもたらせている。いつだって飄々としている男も優勝には強いこだわりを持つ。「だって優勝したいじゃないですか!」。優勝について語る時だけは目に力が入る。こういったところでのギャップがまたこの男の魅力なのだ。背番号「12」と歩むリーグ優勝への道。飄々と淡々と、しかし熱く。マリーンズには独特だが頼れるエースがいる。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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