連載:サッカーの移籍報道、各国主要メディアの「信頼度」をジャッジ

イタリアの移籍報道、信頼できる媒体は? 最も信ぴょう性が高い「2人の専門記者」

片野道郎
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臆測や願望に基づいたいわゆる飛ばし記事も含めて、イタリアには移籍報道を楽しむ文化が根付いている 【Getty Images】

 国別に、主要メディアの移籍情報の信ぴょう性をジャッジする当連載。第1回はイタリア編だ。伝統的メディア、移籍専門サイト、SNSという3つのカテゴリーに分け、各媒体の報道姿勢や特徴も含めて整理した。イタリア在住のジャーナリストがまとめた移籍報道の歴史・変化や現状分析は、少なくない部分が他の国にも共通するだろう。
※星の数で表わした「移籍情報の信ぴょう性」は5段階評価

「もしかすると」系のニュースも積極的に発信

1.伝統的メディア(スポーツ紙、一般紙、テレビ)とそのウェブサイト
 インターネットが普及し、ニュース報道の主なプラットフォームが紙媒体からウェブ媒体に移行した2000年代初頭まで、移籍ニュースは新聞(スポーツ紙、一般紙)、テレビという伝統的メディアがもっぱら担っていた。

 イタリアの場合、カルチョ(=サッカー)への社会的関心が高いこともあって、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』、『コリエーレ・デッロ・スポルト』、『トゥットスポルト』といういわゆる3大スポーツ紙だけでなく、『コリエーレ・デッラ・セーラ』、『ラ・レプブリカ』、『ラ・スタンパ』などの一般全国紙、さらには各地方のローカル紙にとっても、移籍ニュースは重要なコンテンツであり続けてきた。

 同じことはテレビ局にも当てはまる。国営放送局『RAI』、民放の全国ネット3局を保有する『メディアセット』という2大ブロードキャスターは、新聞でいうと一般全国紙と同じポジションだ。

 ただし、今のように事実上1年を通して移籍交渉が行われるようになる以前、2000年代半ばまでは、移籍ニュースがマスコミを賑(にぎ)わせるのは新シーズンに向けた補強の動きが活発化する5月から8月、そして冬の移籍期間にかかる12月から1月に限られていた。それもあって、一般紙やテレビ局はもちろんスポーツ紙にも移籍専門の記者は存在せず、いわゆる番記者が担当クラブの情報をカバーしていた。

 移籍ニュースのように速報性が高い報道のプラットフォームがウェブに移行した現在は、伝統的メディアにおいてもそちらが完全に主体になっている。しかし各メディアの取材体制は、基本的に従来のやり方がそのまま続いている。

 情報量という観点から見れば、最も充実しているのはスポーツ紙(ウェブサイトも含む)だ。これは単純に、スポーツを専門としていて割けるスペースが多いため。ウェブサイトにしても、スポーツに特化しているスポーツ紙と、あらゆるニュースを扱う一般紙やテレビ局では、1日当たりのスポーツ記事数は10倍以上違う。

 これは、スポーツ紙はそれだけ日々「埋めるべきスペース」が多いということでもある。見方を変えれば、ニュースがなくとも何か書くことをひねり出さなければならないということ。移籍ニュースに関していえば、確度の低い情報でも載せなければスペースが埋まらないという状況は、スポーツ専門メディアでは日常だと言ってもいい。

 またスポーツ紙は一般紙と比べて、より「読者(=ファン)が喜びそうなニュース」を好んで報じる傾向が強い。「メッシ、バルサと決別してインテル入りか?」といったニュースは、たとえその確率がほんの1%しかなかったとしても、何らかの兆候をつかんだ時点ですぐに報じたいネタだろう。スポーツ紙はそうした「もしかすると」系のニュースも、一般紙やテレビ局より積極的に発信する傾向がある。その意味で、媒体全体としての信頼度という点では、スポーツ紙よりも一般紙やテレビ局のほうが高いという側面もある。

イタリア最古のスポーツ紙ガゼッタは、3大スポーツ紙の中で最も慎重な報道姿勢を持ち、移籍ニュースの信ぴょう性が一番高い 【Getty Images】

スポーツ紙
■ガゼッタ・デッロ・スポルト
移籍情報の信ぴょう性:★★★★☆(4)


 1896年創刊というイタリア最古のスポーツ紙。ピンク色の紙面がシンボルマーク。20世紀を通してイタリアのスポーツジャーナリズムの総本山というべき権威あるメディアであり続けてきた。移籍ニュースに関しては、スポーツ紙の中では最も慎重な報道姿勢を持っており、臆測と願望だけに基づく派手なスクープ記事の頻度は最も低い。ミラノに本拠を置くこともあって、ミラノ(ミラン、インテル)、トリノ(ユベントス、トリノ)という北部のクラブへの取材体制が厚く、情報も充実しているが、ローマ(ラツィオ、ローマ)、ナポリをはじめとする他のエリアの大都市のビッグクラブ、さらには地方都市の中小クラブまでカバーしている。

■コリエーレ・デッロ・スポルト
移籍情報の信ぴょう性:★★★☆☆(3)


 イタリア第2のスポーツ紙。ライバル紙として『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に対抗しなければならない宿命から、編集方針もガゼッタの“逆張り”になる傾向が強い。現在の編集長(イヴァン・ザッザローニ)は大衆迎合的な姿勢が強く、議論の的になりやすい派手な見出しや論調を好み、編集方針はやや“炎上商法”的だ。移籍ニュースにも同じ傾向が見られる。本拠を置くローマを中心に、ナポリ、フィレンツェ、ボローニャなど中部・南部の取材体制が充実しているが、ミラノ、トリノなどの北部地域もしっかり押さえている。
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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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