ブラインドランナーと伴走者は一心同体! 1本のロープがつなぐ、ふたりの絆

荒木美晴

全盲スプリンターとして東京パラ出場を狙う鈴木秀俊選手とガイドランナーの青木邦成さん(写真左から) 【写真:荒木美晴】

 パラ陸上には視覚障がいクラスがある。ジャパンパラ競技大会の場合は、障がいの程度に合わせて、T/F11〜T/F14(Tはトラック種目、Fはフィールド種目)の4つのクラスに分けられている。T/F11は全盲、T/F12は弱視というように、数字が大きくなるにつれて障がいが軽くなる。レース中、選手が安全に走るために、代わりの「目」となってサポートするのが、「ガイドランナー(伴走者)」だ。

 スポーツナビは、陸上・十種競技の元全日本王者でタレントの武井壮さんが視覚障害者陸上に挑戦するNHKの取材に同行。全盲スプリンターとして東京2020パラリンピック出場を目指す鈴木秀俊とガイドランナーの青木邦成さんに、ふたりの出会いや練習の工夫、競技の魅力について話を聞いた。

理想は「できれば1歩目、いやゼロ歩目から……」

選手とガイドランナーは常に同調して走らないといけない 【写真:荒木美晴】

 高校時代は陸上部で400メートル走の選手だった鈴木。30歳で網膜色素変性症と診断され、徐々に視力を失うなか、一度は辞めた競技への想いが再燃。パラ陸上の選手として再び走り出した。男子100メートル(T11)の自己ベストは12秒06。2010年の広州アジアパラ競技大会では、この全盲クラスの男子200mで銅メダルを獲得しているスプリンターだ。静岡で特別支援学校の教員をしながら、最高峰の舞台を目指している。

 ガイドランナーの青木さんは、静岡の別の特別支援学校の教員。鈴木が所属先を現在のSRC(シオヤレクリエーションクラブ)に変更した際、鈴木に声をかけられ、「本気でパラリンピックを目指すなら」と、その熱い気持ちに応えた。ガイドランナーは選手とコミュニケーションを取りながら一心同体となって走らなければならない。当然、高い競技力が求められるわけだが、青木さんは大学院で陸上のコーチングを研究し、100メートル10秒64の記録を持つアスリート。鈴木の理想のパートナーと言える。

選手とガイドランナーをつなぐ「テザー(ガイドロープ)」。2018年から、伸ばした状態で輪の両端の間の最大長は30センチ以下と定められた(写真左が現行ルールのもの) 【写真:荒木美晴】

 選手とガイドランナーは並走する。そのふたりをつなぐもの、それが1本の「テザー(ガイドロープ)」だ。テザーは伸縮性のないロープの両端に2つの輪がついたもので、選手とガイドランナーはそれぞれ輪の部分を握って走る。トラック種目の場合は、テザーは伸ばした状態で輪の両端の間の最大長は30センチ以下と定められており、ガイドランナーはこれを使って選手を引っ張って走ってはいけないというルールがある。

 ふたりの体幹のブレや腕の振りが少しでもずれれば、テザーは引っ張られてしまう。つまり、選手とガイドランナーはスタートからゴールまで、常に同調して走り切らなければならない。「できれば1歩目、いやゼロ歩目からシンクロしつつ、自由に抵抗なく走ることが理想。そこを練習で追求しています」と鈴木。青木さんも「テザーのたわみ具合で、隣の秀俊さんの走りをチェックします。ガイドランナーには、そういう余裕がないといけません」と奥の深さを語る。

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著者プロフィール

1998年長野パラリンピックで観戦したアイススレッジホッケーの迫力に「ズキュン!」と心を打ち抜かれ、追っかけをスタート。以来、障害者スポーツ全般の魅力に取り付かれ、国内外の大会を取材している。日本における障スポ競技の普及を願いつつマイペースに活動中

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