連載:闘魂60周年記念、アントニオ猪木が語る3つのターニングポイント

猪木が考える“後継者の条件”とは? 「面白ければいい」の信念に秘めた思い

茂田浩司

必要なのは「客が何を求めているか」を瞬時に捉えること

後継者の話になると、表情が一変する。そのハードルは高いようだ 【撮影:菊田義久】

――そうですか……。

 やっぱり、瞬時に客が何を求めているのか、要求を捉えないといけない。それを捉えられる人は、いろんな世界にヒーローはいると思うけど、あんまり数はいないんじゃないですか。

――そこがスター選手とそうではない選手との差になるんでしょうね。気になるのは、力道山さんから受け継いだ猪木さんの「闘魂」を誰が受け継いだのか、なんです。

 いない(キッパリ)。

――ええっ、いませんか……。ファンは小川直也さん、藤田和之さんに期待していると思うんですが。

 精神が違うから。技とかなんかではなくて、生い立ちとか生きざま、そこに「何を目指したのか」。残念ながらね、そこに何かを残したいと思ったんだけど、一代で終わりだね。

 師匠も多分、そこは後継者を育てようと一生懸命で、期待してくれていたと思うんだけど、その期待に俺たちは応えられたかなと考えることはありますよ。おそらくジャイアント馬場さんにも、そこは全くなかったと思います。

――なるほど。

 興行としての価値観としてはね。

――後継者に関連する話ですが、プロレスをしていて「お客さんの風を感じる」とおっしゃっていましたが、それはどんな瞬間なのでしょうか?

 そうですね……。あんまり自分を解析したことがないんでね。インタビューをされるたびに「俺って何かな?」と思うんだけど……。

――風を感じるとは、観客のニーズに敏感になれと?

 要するに、もっと分かりやすくいえば「面白ければいいじゃん!」っていうね、フフフ。

――おお!

「面白い」っていう意味は、非常に奥が深いんですけど。それは喜びもあったり、悲しみもあったり。それで、観客はそれぞれの思いを持ってプロレスを観に来る。勝ち負けを期待し、技や闘い方や、1つ1つを見る。

 昔、こんなことを聞いたことがあるんだけど。要するに、野球は「ジャイアンツが勝ちました、阪神が勝ちました」って、試合が終わると喫茶店でちょっと盛り上がって終わりになる。でも、プロレスだけはそうじゃなくて、朝まで「あれはこうだった」「いや、こうだ」ってみんなで議論をするようなジャンルだと。

――思わず語り合いたくなる試合が多いですよね。とてもよく分かります。

 俺は、やっていた人間ですから(笑)。ある意味でありがたいことだけど「そんなに語れるほど、なんかあったかな?」というね(笑)。

――猪木さんの試合には、朝まで語れる試合がたくさんありました。が、やっているご本人の感覚としては「え、なぜ?」という感じなんですね。

 あんまりね。今だからこうやって、その頃のことを振り返ってモノが言えるんですけど、その時、その時は必死だからね。

――そうなんですね。

 試合が終わると、スタッフとかみんなで反省会をするんですよ。古舘伊知郎(当時『ワールドプロレスリング』実況アナウンサー)なんかもテレビ局の人間と話しても面白くないから、早く俺の席に来たがっててね(笑)。

 そうすると、今度は「1回、タイガーマスクを消さなきゃいけない。どうするんだ?」「砂漠の彼方に消えていくのか?」「マスクを持って1回、宇宙に飛んでもらうか」なんてね(笑)。

――大会の後に(笑)。

 バカじゃねえかと思うけど(笑)、そういうことを真面目に語ったこともありますよ。

(企画構成:有限会社ライトハウス)

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