桐生祥秀が考える「いま出来る事」とは 高校生たちのため、新たな試みに挑む
プロジェクトは「僕たちから発信するだけではなく……」
「インターハイ中止を聞いた時は自分が出場した時のことを思い出しましたが、何と言えばいいか分からない部分もあるのでこのメンバーでシンポジウムをやろうかなということになりました。インターハイの長い歴史の中で中止というのは今回が初めてで、それを経験した人は誰もいない。今の高校生たちにちゃんと寄り添って発言できる人は誰もいないのが現状なので。だから僕たちから発信するだけではなく、全員で高校生や中学生からの意見を聞いてやった方が絶対にいいと思いました。
これからどうなるかは正直言って全く分からない状況の中で、高校生たちに自分の高校時代の話をしても、インターハイで優勝もしているから半分くらいは自慢話になってしまいかねない。だから自分からは発することが出来ないというか、それを聞いている高校生にすれば『いやいや、あなたの時はインターハイがあったでしょう』と言うことにもなります。全員に100%の答えを返せるとは思っていませんが、向こうから発信してきたことをみんなで考えたり、発信してきた高校生と話したりするというのもいいかなと思っています」
これまでSNSで質問を受けることもあったが、中には「どうやれば速くなりますか」というような、返答に窮する質問もあるという。「もし自分が中学や高校生の時に、その時トップだった(2008年の北京五輪では4×100メートルリレーで銀メダルを獲得した)塚原直貴さんがSNSをやっていたとしても、『俺はこんなの送れるわけないな』というような内容も多いんです。『質問をしてくれてありがとう』だけで終わるのは僕のSNSでいいと思うので、このプロジェクトではもうちょっと詳しいところまで行きたいです」と言う。
「技術的な話も、精神面の話も出来たらいいなと思います。今のような普通ではない、限られた環境の中でどういう風に工夫をすればいいかというアドバイスもできると思いますが、中学生や高校生も陸上に対する知識があるので、僕たちが勉強させてもらえることもあると思います。SNSなどで文字だけを見ると怒っているのか真剣なのかわからないパターンが多いですが、オンラインツールを使えば発言している人の表情も見えるので、本当の気持ちも感じ取れる。これまで試みたことがないような方法なのでやる意味もあると思うし、プロジェクトとしてできる限りのことはやっていこうかなと思っています」
学生たちは「もっと失敗していい」
自身の経験を振り返り、高校生への思いを伝えた 【スポーツナビ】
「失敗をもっとしてもいいかなと思いますね。レースが終わった後のインタビューなどで『今回は悪かったけどなぜですか?』と質問されることがありますが、中学生や高校生は『ここがダメ』と言われると大人の僕らとは違って敏感に感じ取り過ぎて、「失敗したらまた言われるんじゃないか」と考えてしまう。その経験は僕自身もあって、9秒台が出なかったレースでは言われ続けました。だからまずはいろんなことに挑戦してみて、それでスタートが遅くても後半伸びていけばいいとか……。失敗しても大丈夫なレースは絶対にあると思うから、その中で『誰が何を言っても関係ないから、このレースに挑むんだ』という気持ちでやるという選択もあるというのを話せればいいかなと思います」
大会が中止や延期になった中で、多くの人の協力があって大会が開催されていたことを改めて感じた桐生。自粛期間中にさまざまなことを考えたが、「こういう時だからこそ、これまでできていなかったものに挑戦してみたい」という気持ちも生まれてきた。
それもまた、自分の競技者としての1つの成長だと自覚している。