桐生祥秀が考える「いま出来る事」とは 高校生たちのため、新たな試みに挑む
五輪延期が決まり、その後の外出自粛期間での過ごし方や心境を語った 【写真:松尾/アフロスポーツ】
だが新型コロナウイルスの影響は世界に広がり、3月15日には出場予定の大会の延期が発表された。その後帰国した桐生は2週間の自宅待機措置のために外出できない状態になり、東京五輪延期の発表は待機中の自宅で知ったという。
「東洋大のグラウンドも6月に入ってからは、公共交通機関を使用しないものだけ使用できるようになりましたが、帰国してからは2週間の外出禁止もあって2カ月間は家の近くで練習するしかない状態でした。近所ではけっこう長い坂道や芝生もあるので、すれ違う人がほとんどいない時間帯にと考え、朝は5時頃、夜なら22時過ぎにいろいろ工夫しながら坂道などを走っていました。マスクを付けたままで走ると息苦しいですが、それをプラスに考えてしんどくてもずっと外さないで走ったり。外に出ている時間は1時間以内にしようと考えていたので、自宅の中で準備体操や補強などをやって動ける状態になってから外に行くようにしていました」
五輪延期が決まっても変わらなかったメンタル
「五輪が1年延びたことに関しては、そんなに動揺もなかったですね。今のところは1年1年アベレージも上がっているし、試合に対する向き合い方も変わってきているので、メンタルや成長という面では、そうした上積みがさらに1年増えたという感覚です。これがもし30歳くらいだったら話は変わると思いますが、24〜5歳ではそこまで歳を感じることもないし、自分の力でどうしようもないことは変えられないので。最初の頃は『いつもだったら織田記念だったな』とか、『この時期はゴールデングランプリだな』と思いながら過ごしていましたが、とりあえずは毎日体重計に乗って、太らないようにすることを絶対条件にして。トレーニングで体重が増えたら筋肉が付いたことになりますが、今の最低限のトレーニングでは筋肉が増加することはないので、そのあたりは気を付けていました」
自宅に器具を購入し、最低限のトレーニングを続けていた 【写真提供:株式会社アミューズ】
「空いている時間はけっこう勉強もしていましたね。今は(新型コロナウイルスにかかわる)補助金のことも話題になっているので『お金って何かな』と考えて簿記の勉強をしたり、新聞を毎日読んで株を見ながら経済の勉強をしたり。他には英会話もやったり、メンタルの本なども読んだりとか。大学ではやっていなかったような勉強も後々には必要になるからやるなら今だと。1日7時間くらいはそういうことをしていたので、時間はたくさんあったけど暇ではなくて良かったです」
まだ競技会がいつから再開されるかわからない状態の中で、日本選手権は10月1日から新潟・デンカビッグスワンスタジアムで開催されると発表された。桐生も日本選手権を目標にするが、「いつもと違う形で過ごしている中で、9月や10月になった時にどのくらいで走れるかというのも楽しみです。それで足りない物が見つかれば、また冬季練習でやればいいかなと思っています。試合が始まったとしても体がどうなるか分かっていないのでそこには気を付けながら、自分のペースを崩さずにやっていこうと思います」と、落ち着いた雰囲気で対応している。