ラグビーの魅力と醸成された観戦文化 期待高まるスポーツビジネス界の発展
ラグビーワールドカップのその先に
一時は台風の影響で試合中止も危ぶまれた日本対スコットランド戦。日本は歴史に残る勝利で、初のベスト8進出を成し遂げた 【写真は共同】
嶋津: 私自身は、結果良ければすべてよしだと思っています(笑)。10月13日の日本対スコットランド戦は、台風の影響で開催が危ぶまれました。施設、JR、私鉄などの鉄道関係者運営スタッフなどの協力の下、なんとか実現にこぎ着け、朝6時の段階で試合開催を決断する発表ができました。中止であれば、引き分け扱いで決勝トーナメントに進めるはずだった日本代表も、2015年大会ではスコットランドに敗れてことでノックアウトステージに進めなかったこともあって、「絶対に試合をしたい」という気持ちでいたと聞きます。そのような彼らのモラルも含めてすべてが重なって、結果的に本当に素晴らしいゲームになりました。初のベスト8進出を成し遂げたあの試合は、日本ラグビー史だけでなく、世界のラグビー史に残る試合の一つになったと思います。さらに、南アフリカ対イングランドの決勝戦では、横浜国際総合競技場で7万103人という空前絶後の同スタジアムにおけるスポーツイベント入場者数新記録を打ち立てました。
大会運営に関して、ワールドラグビーが終始主張していたのは、「チームファーストで考えてほしい」「ラグビーワールドカップスタンダードで環境整備をしてほしい」という2点です。無理なものは無理ですから私たちも随分けんかをしましたが、「日本だったらできるだろう」という期待も感じて、その要望に応えるべく挑戦してきました。約180万枚のチケットに関して99.3%の販売率を達成したことも、チケッティングやマーケティングを担当するスタッフが努力して、お客様に受け止めていただいた結果です。決勝戦のカテゴリーA席のチケット価格10万円には、「本当に売れるの?」と疑問視されましたが、それもワールドカップスタンダードの試合を提供するためのコストであるとファンの皆さんが好意的に受け止めてくださったことがありがたかったです。ただし、チケッティングについては、ワールドラグビーとも販売するチケットの配分を調整するのですが、本当にチケットを買いたい人に適切に届けるための販売システムは、今後まだ改善の余地があると思っています。
大会終了後、11月3日の記者会見ではワールドラグビーのビル・ボーモント会長が、「ラグビーワールドカップの中で最高の大会の一つだった」と話してくれました。日本代表の活躍に加え、世界の代表たちによるワールドカップが素晴らしいドラマを作り上げてくれたと思っていますし、チームファーストとラグビーワールドカップスタンダードの実現に向けた組織委員会のメンバーの努力にあらためて感謝しています。
大会後、ワールドラグビーのビル・ボーモント会長(左)は「最も偉大なワールドカップとして記憶に残る」と評価し、組織委員会の御手洗冨士夫会長と握手を交わした 【写真は共同】
――大会を通してラグビー人気が高まり、大会後のトップリーグは超満員で開幕しました。そのタイミングでコロナウイルス感染が拡大し、ラグビーもリーグが中断しています。今後に向けてお感じになっていることは。
嶋津: これはラグビーに限らず日本全体の問題ですし、スポーツだけでなく文化のようなものも含めて世界中で大きな問題になっています。延期になった東京2020大会や、ワールドマスターズのような大会が、コロナ克服の象徴として展開されることを期待しています。
日本ラグビー協会も今後に対する影響については悩んでいると思います。今大会の黒字約68億円が、レガシー基金として日本ラグビー協会に受け継がれます。日本とアジアのラグビーをさらに強化し、普及しながら、もう一度ワールドカップ開催を目指していくということもあるかもしれません。
組織委員会で働いていた若者の中には、ワールドカップ終了後に東京2020大会組織委員会へ移ったメンバーも20人ほどいますが、「スポーツビジネスに従事したい」という熱意を持った優秀な若者たちが数多くいることを実感しました。だからこそ、そういう若者たちが活躍できるようなパーマネントな職場として、スポーツビジネスがさらに発展していくことを期待しています。