連載:Jリーグ・クラシック

今は亡き「大さん、マツさんのプレーを」 中澤佑二が語る“マリノス黄金時代”

飯尾篤史

磐田との劇的な一戦。最後の記憶は久保の後ろ姿!?

磐田との劇的な最終節を振り返る中澤。優勝した瞬間は「全然覚えていない」と笑う 【スポーツナビ】

――2ndステージは開幕から3試合未勝利で14位に沈みますが、徐々に盛り返してきて、3位で最終節を迎えます。最終節の相手は首位の磐田。横浜FMが磐田に勝っても、2位の鹿島アントラーズが勝ったら優勝できないという状況でした。チームはどんな雰囲気で最終決戦を迎えたのでしょうか?

 たしか岡田さんは、まずこの試合のことだけを考えようと。100%のプレーをして、それで優勝できなかったら、しょうがない。優勝できる、できないとか、得失点差のこととかは考えるな。この試合に勝たなきゃ意味がないんだ、というようなことを言っていましたね。だから、選手たちも、完全優勝とかは意識していなかったと思います。

――ところが、開始3分にグラウのゴールで先制され、15分にGKの榎本哲也選手がグラウへの暴力行為で退場となります。

 榎本のてっちゃんは当時若かったので、入れ込んじゃったというか、若さが出たかなと。たしかにグラウはファウルですけど、何でもないような感じだったんですよね。マイボールだなと思って、気がついたら……。

――榎本選手がグラウを倒していた。

 100メートル11秒台で走ってましたね(笑)。え、何が起きたの? っていう感じでした(笑)。

――1点ビハインドで、しかも、ひとり少ない。大ピンチです。

 キツいですよね。ただジュビロが、これで余裕を持ってゲームを進められるな、と思ってくれたと思います。攻めて来なくなりましたから。慌てなくていいよ、ゆっくりやろう、みたいな。それは助かりましたよね。

――後半が始まってすぐセットプレーからマルキーニョスのゴールで追いつくと、今度は磐田が猛攻に転じます。そこからの40分間は、マリノスDF陣にとって苦しい時間帯だったと思います。

 考えていたのは、2点目を与えないということだけ。岡田さんがよく言っていたんですけど、1点を取られるのは仕方がない。ただ、2点目を取られちゃダメだと。だから、2点目さえ取られなければチャンスが来るかもしれない。そんな考えがみんなの中にもあったんじゃないかな、と思いますね。

――そして、アディショナルタイム。松田さんのキックがワンバウンドしたところで久保さんがジャンプ一番。

 すごかったですよねえ。ワンバウンドしたのは見えたので、何かが起きるかな、とは思ったんです。でも、まさか入るとは思わなかった。ただ、DFの気持ちも分かるんですよ。バーンと蹴られて、ああ、どうしよう、どうしよう、クリアして相手ボールになったら嫌だなとか、いろんなことが頭によぎるんです。その一瞬の迷いが失点につながっちゃう。あらためてディフェンスって難しいポジションだなと思いますね。1-1で終われればいいという守りの姿勢によって、こういうことが起きる。だから、ディフェンスでも、どのポジションでも、強気のプレーは大事ですよね。

――この試合は2-1でマリノスが劇的な勝利を飾りますが、この時点では鹿島が浦和にリードしていました。そうしたらエメルソンのゴールが決まり、スタジアムの大型ビジョンにうなだれる鹿島の選手たちの姿が映し出された。

 たしかハーフタイムの時点では鹿島が2-0で勝っていたんですよね。それが追いつかれるなんて。ただ、優勝した瞬間とか、全然覚えていないんですよ。僕も電光掲示板を見ていたはずなんですけど、記憶にない。あの試合の最後の記憶は、タツさんがジャンプした後ろ姿(笑)。自分はDFなので、負けた試合とか、やられたシーンははっきりと覚えているんですけどね。

「マツさんの隣でプレーしたくてマリノスに来た」

松田(右)から「学びたくて横浜FMに来た」と中澤。常にその背中を追い続けてきた 【写真:アフロスポーツ】

――今回のRe-Liveでこの試合を初めて見る人たちも多いと思います。あらためて、この試合のどんなところを見てほしいですか?

 もう17年前なので、今のサッカーと比べて厳しい目で見ないでほしいですね。すごく間延びしているなとか(笑)。あと、個人的には、(奥)大さんとマツさんのプレーを知らない人も増えてきたと思うので、ふたりのプレーを目に焼きつけてほしい。大さんが、マツさんが、どれだけすごかったかを。この前の年に(中村)俊輔が移籍して、大さんはその穴をひとりで埋めていた。FKを蹴って、オフェンスをひとりで仕切って、ディフェンスまで頑張って。相当なプレッシャーがあったと思うんですよ。でも、大さんは全部やってくれていた。

 マツさんはもう、1対1が強いし、インターセプトがすごくきれいなんですよ。で、奪ったらそのままオーバーラップして運んでいく。あれは本当にカッコ良かった。

――全盛期のふたりと一緒にプレーできたことは、中澤さんにとって、どんな意味がありますか?

 僕はもともと、マツさんの隣でプレーしたくて、マツさんから学びたくてマリノスに来たんですよ。だから、自分が尊敬する人の隣でプレーして、優勝まで勝ち取れたのは本当にうれしかった。と同時に、まだまだマツさんには追いついていないな、というのも常に感じていて。いつまでもおんぶに抱っこじゃなくて、早くマツさんに追いつきたい。それが当時のモチベーションでもありました。あのオーバーラップは、最後までマネできませんでしたけど(笑)。

 大さんに関しては、この頃のマリノスの雰囲気を作っていたのは、大さんなので。練習がいくらキツくても、大さんは笑顔を絶やさなかった。だから、ピリピリした雰囲気の中にも柔らかさがあって、紅白戦でいくらバチバチやりあってもギスギスしなかった。それは間違いなく、大さんの人間性のおかげだったと思います。

――中澤さんにとってこの03年は、岡田監督と出会ってタイトルを獲得し、秋には日本代表にも復帰しました。リスタートという点で大きな意味を持つシーズンだったと思います。

 代表はね、そこまで気にしていなかったですよ。もちろん入りたかったですけど、それよりもマリノスで優勝したかった。まずはJリーグで結果を残したいというのが当時のモチベーションだった。そのためにも、岡田さんのもとで成長したいという気持ちが強かった。そういう意味で、自分にとって自信になるシーズンだったと思います。

DAZN Re-LIVE J.League Classic Match
2003 2ndステージ第15節 横浜F・マリノスvs.ジュビロ磐田 配信中

<今後の配信予定>
4月25日(土)〜 2006 J1 第34節 浦和レッズvs.ガンバ大阪
5月2日(土)〜 2007 J1 第34節 鹿島アントラーズvs.清水エスパルス

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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