競歩・岡田久美子が乗り越えた苦悩の時期 若きライバルと共に目指す五輪のメダル
幸運だったライバルの登場
20キロの日本選手権では6連覇を達成中。藤井というライバルとともに、日本のレベルを押し上げていく 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
「彼女の成長は私にとっても大きいですね。彼女は度胸があるというか、練習でも『全部ついていきます』というところがあって、技術より気持ちで押していける。私がいきなり練習メニューを変更して『結構きついよ』と言っても、『分かりました』と言ってやってしまう度胸がある。若くて勢いもあるので、彼女のおかげで私も『負けてられない』となりますし、世界選手権も負けそうだったので、その後も『油断できないな』という気持ちでやれています」
世界選手権で6位になれたのも、藤井がいたからだと理由を明かす。夏の練習もずっと一緒で互いに引っ張り合いながらこなしていたこともあり、本番で2人になっても同じように引っ張り合いながら順位を上げることができた。「もし藤井さんが一緒じゃなければ、8位で満足して最後は抜かれていたかもしれない。でもあの時は『彼女に負けたら日本に帰れない』と思っていましたから」と笑う。
「藤井さんに負けそうだったことや、メダルの3人とはまだ1分30秒ほどの差があったので心の中に火が付きましたね。帰国してから少し休んだけど11月から練習を再開したので、12月に1万メートルの日本新も出せました」
こう話す岡田は、世界選手権後のウエイトトレーニングでは、フリーウエイトも導入した。メダルを独占した中国選手を見て、彼女たちが自分より力強い動きが出来るフィジカルを持っていると感じたからだ。かつては4分くらいあった差が、今は1分半くらいまで縮まった。そこからの差を詰めるためにも、新たなトレーニングを取り入れることで「少しだけ光が見えた気がする」とほほ笑む。
五輪開幕までに「メダル争いの準備をしていく」
練習の目的によって、異なるシューズを使い分けている。それが競技者としての強さにつながっていく 【スポーツナビ】
「『ストロー』と呼ばれる、ランニングで言うゆっくりしたペース歩の場合は、ソールが厚くてクッション性の備わっているものを使います。これを履くとかかとでグッと踏み込めるのが魅力で、その踏み込みの強さや膝を伸ばして体を支持する力強さも必要になるので強化にもなるし、フォームや力の使い方を意識できます。ただクッション性がある分、踏み込んでから足を前に出す反応は少し遅れるので、スピードを出す練習ではスピードに特化した形状と素材になっているソールの薄いシューズを使います。アディダスの場合はそういう使い分けがすごく分かりやすいので、目的によって使い分けをしながら練習が出来るところを信頼しています」
岡田にとって、競歩とは速さという一点のみを追い求める競技ではない。目的によって異なるシューズを使い分け、着実に地面を蹴って推進力を生み出す力を鍛えることも、競技者としての強さにつながっていく。
3月24日のIOC臨時理事会で、20年に開催予定だった東京五輪が、21年夏までの最大1年程度延期されることが決定した。岡田が五輪までに目指すのは、メダル争いができる準備をしていくことだ。
「世界選手権は男子が2種目で金ですし、メダルが出ないと評価されない厳しい世界なので。ただ日本の女子は五輪ではまだ誰も入賞していないので、それを確実に果たしたいという気持ちはあります。それにメダルというのも初になるので、第一人者としては『私が取りたいな』という気持ちでやっています。東京で競技を引退するとは思っていないですけど、集大成という気持ちで取り組んでいます」
1人で苦しみながら、日本女子競歩再建への道を切り開いてきた岡田。藤井という、やっと現れた年下のライバルとともに、これからさらに加速していく。