競歩・岡田久美子が乗り越えた苦悩の時期 若きライバルと共に目指す五輪のメダル

折山淑美

幸運だったライバルの登場

20キロの日本選手権では6連覇を達成中。藤井というライバルとともに、日本のレベルを押し上げていく 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 岡田にとって幸運だったのは、ちょうどその時期に実業団入りし、競歩に専念して2年目になる藤井が力を付けてきて、年間を通して一緒に練習するようになったことだ。18年は1時間33分27秒がベストだった藤井は、19年は日本選手権で1時間29分55秒をマークし、岡田ともに世界選手権の代表入りを果たすと、続くラコルーニャ大会では1時間28分58秒まで記録を伸ばしてきた。そして世界選手権では岡田と競り合う歩きをするまでになった。

「彼女の成長は私にとっても大きいですね。彼女は度胸があるというか、練習でも『全部ついていきます』というところがあって、技術より気持ちで押していける。私がいきなり練習メニューを変更して『結構きついよ』と言っても、『分かりました』と言ってやってしまう度胸がある。若くて勢いもあるので、彼女のおかげで私も『負けてられない』となりますし、世界選手権も負けそうだったので、その後も『油断できないな』という気持ちでやれています」

 世界選手権で6位になれたのも、藤井がいたからだと理由を明かす。夏の練習もずっと一緒で互いに引っ張り合いながらこなしていたこともあり、本番で2人になっても同じように引っ張り合いながら順位を上げることができた。「もし藤井さんが一緒じゃなければ、8位で満足して最後は抜かれていたかもしれない。でもあの時は『彼女に負けたら日本に帰れない』と思っていましたから」と笑う。

「藤井さんに負けそうだったことや、メダルの3人とはまだ1分30秒ほどの差があったので心の中に火が付きましたね。帰国してから少し休んだけど11月から練習を再開したので、12月に1万メートルの日本新も出せました」

 こう話す岡田は、世界選手権後のウエイトトレーニングでは、フリーウエイトも導入した。メダルを独占した中国選手を見て、彼女たちが自分より力強い動きが出来るフィジカルを持っていると感じたからだ。かつては4分くらいあった差が、今は1分半くらいまで縮まった。そこからの差を詰めるためにも、新たなトレーニングを取り入れることで「少しだけ光が見えた気がする」とほほ笑む。

五輪開幕までに「メダル争いの準備をしていく」

練習の目的によって、異なるシューズを使い分けている。それが競技者としての強さにつながっていく 【スポーツナビ】

 岡田はシューズにも強いこだわりを持ち、トレーニングではソールの厚さの違うものを使い分けているという。

「『ストロー』と呼ばれる、ランニングで言うゆっくりしたペース歩の場合は、ソールが厚くてクッション性の備わっているものを使います。これを履くとかかとでグッと踏み込めるのが魅力で、その踏み込みの強さや膝を伸ばして体を支持する力強さも必要になるので強化にもなるし、フォームや力の使い方を意識できます。ただクッション性がある分、踏み込んでから足を前に出す反応は少し遅れるので、スピードを出す練習ではスピードに特化した形状と素材になっているソールの薄いシューズを使います。アディダスの場合はそういう使い分けがすごく分かりやすいので、目的によって使い分けをしながら練習が出来るところを信頼しています」

 岡田にとって、競歩とは速さという一点のみを追い求める競技ではない。目的によって異なるシューズを使い分け、着実に地面を蹴って推進力を生み出す力を鍛えることも、競技者としての強さにつながっていく。

 3月24日のIOC臨時理事会で、20年に開催予定だった東京五輪が、21年夏までの最大1年程度延期されることが決定した。岡田が五輪までに目指すのは、メダル争いができる準備をしていくことだ。

「世界選手権は男子が2種目で金ですし、メダルが出ないと評価されない厳しい世界なので。ただ日本の女子は五輪ではまだ誰も入賞していないので、それを確実に果たしたいという気持ちはあります。それにメダルというのも初になるので、第一人者としては『私が取りたいな』という気持ちでやっています。東京で競技を引退するとは思っていないですけど、集大成という気持ちで取り組んでいます」

 1人で苦しみながら、日本女子競歩再建への道を切り開いてきた岡田。藤井という、やっと現れた年下のライバルとともに、これからさらに加速していく。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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