福士加代子、東京五輪へラストチャンス 名古屋ウィメンズで覚悟の走り

折山淑美
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2019年の名古屋ウィメンズマラソンで日本人2位となる8位に入り、喜びの笑みを見せた福士 【写真は共同】

 1月26日に行われた大阪国際女子マラソンに出場した福士加代子は、25キロ地点付近で走るのをやめた。「陸上競技人生を懸けて走りたい」と話していた、MGCファイナルチャレンジの対象レースでのことだ。もちろん、東京五輪の代表に選ばれる残り1枠を諦めてはいないだろう。「失意の決断」だったかもしれないが、3月8日に控えた名古屋ウィメンズマラソン2020で最善を尽くすための「勇気ある決断」でもあったはずだ。

 屈託のない笑顔と天真らんまんな発言、そして爽快な走りっぷりでファンの心をつかんできた福士。3月25日で38歳となる彼女が迎える正真正銘のラストチャンスが、いよいよ迫ってきた。集大成と位置づけられるレースで、どんな姿を見せてくれるのか――。

ワコールで主役候補に“変身”も…

 青森県立五所川原工業高校の3年生の時に出場したインターハイでは、特に目立つこともなく静かに舞台から降りた。3000メートルは12位で、800メートルは予選敗退。同年の高校ランキングでは3000メートルが17位、1500メートルが23位、5000メートルは40位だった福士。彼女が日本女子長距離界の端役から主役候補に“変身”を遂げたのは、高校卒業後にワコールへ入社し、永山忠幸監督の指導を受けるようになってからだ。

 福士のポテンシャルは、いきなり花開いた。入社1年目の9月に5000メートルで高校時代の記録を1分以上更新する15分35秒台を出すと、その1週間後に迎えた日本選手権では初出場ながら15分29秒70をマークして3位になり、世界ジュニアにも出場して堂々の4位。社会人2年目の2001年には、3000メートル、5000メートル、1万メートルで日本ジュニア新記録を連発した。

 その頃から夏場には欧州に遠征してレース経験を積むようになり、02年6月の日本選手権では5000メートルと1万メートルで優勝。10月のアジア大会では1万メートルで日本歴代2位となる30分51秒81(2位)を記録すると、4日後に行われた5000メートルでも日本人初の14分台(14分55秒19)を出して2位になるなど、一躍世界のトップクラスに肉薄するポジションまで駆け上がる。

 その後は、世界選手権や五輪などの主要大会で日本代表の常連となった。トラック競技で頭角を現した福士だったが、当初はマラソンに興味を示さなかった。マラソン転向について問われた際には「2時間も走るくらいなら映画を見ていたほうがいいですよ」などと言っていたが、その実は日本記録の更新まで3秒弱まで迫っていた1万メートルさえ「長い」と何度も漏らすほど、長距離への苦手意識を払しょくできずにいたのだ。
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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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