クラブの破綻、漬物ビジネス転身の先に…レバンガCEO横田陽と折茂武彦の絆

大島和人

復帰の際に「営業をやらせてください」

 一方でタイミングについては戸惑いもあった。

「率直に思ったのは『今か』と。自分の中でもちょっと早いなと感じました。もっといろんな人脈を東京で広げて、成長して自分でお金を引っ張ってこれるようになるのは、もうちょっと先かなと見ていたんです。でも『もう立ち行かない……』という話もあった。1年しっかりやって引き継いで戻ろうと決めました」

 復帰した横田の役職、担当をどうするか? 彼は折茂にこう申し出た。

「『営業をやらせてください』と言ったんです。本当は興行などを任せたいと言われていたのですが、当時の社員からもむしろ『レラカムイにいた人間で、折茂さんが引っ張ってきた』みたいに、ネガティブに見られてしまうと、折茂に迷惑をかけてしまうなと。僕が一番折茂に迷惑をかけず(社員の)信頼を得るには、数字が明らかになる営業だなと思ったので」

営業で数字を残してから、全体を見渡すポジションになることで社員の信頼をつかんだ 【大島和人】

 横田は当時の実態をこう振り返る。

「その当時は営業が全く機能していなかった。セールスシートすら僕が来たときにはなかった」

 プロスポーツにとってスポンサーの獲得は決定的に重要な収入源で、クライアントに提案するためのマニュアルが「セールスシート」だ。看板やユニフォームの胸、背中などに企業名を出すための値段を提示する必要がある。

「クラブの理念や価値をクライアントに伝えるというような資料です。そんな基礎的なものもなかったので、ゼロから自分で作ってやれるなと思いました。そこで売上を出せばクラブのためにもなるし、営業を1年やらせてもらってある程度の数字を残して、そこから事業全体を見るポジションに変わっていきました」

「究極の選択」その答えは?

 横田がCEOの重責を担うようになったのは、16年のBリーグ開幕直前だ。それまでは折茂が社長を務め、オーナー企業の正栄プロジェクトから銀行出身の経営幹部が派遣されていた。その人物が退任するにあたり、正栄プロジェクトの美山正広社長から横田と折茂は「究極の選択」を求められる。

「私と折茂が呼ばれて『人は出さないけれど、支援は間違いなく継続する。ただ経営は中でやったほうがいい。折茂くんがやるのか、横田くんがやるのか決めてくれ。折茂くんがやるなら中途半端な二刀流は無理だ』と言われました」

 当時のレバンガは債務超過で、代表権を持つ経営者となれば個人保証も要求される。極めてシビアな、人生を懸けた挑戦に横田は挑んだ。

「あのときもまだ債務が残っていて、仮に自分がやるとなったら色んな物にハンコを押さなければいけません。それを分かっているから、折茂は『無理するな。俺がやるよ』と言ってくれた。でも私がそれをしなかったら引退が決まる。そんなことできないじゃないですか。かと言って『それだったら自分がやりますよ』といったところで折茂は納得しない。だから『自分でやりたい』『やらせてください』と言ったんです」

 それから3年、横田は苦笑しながらこう明かす。

「別に……。やりたくなかったですけどね。ただ、引退は本人の意思で決めてほしかった」

今季は「勝てるチーム作り」にかじを切った

今季は「勝てるチーム作り」を掲げ、。Bリーグ発足から4年目にして千葉からの初勝利もつかんだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 Bリーグ初年度の16-17シーズンに、レバンガは3000万円を超す黒字を計上した。一方で2億3156万円の債務超過が残っていた。初年度はそれでも許されたが、B1ライセンスの段階的な厳格化があり「18-19シーズンの開幕前に債務超過を解消する」というハードルが設定されていた。黒字を出す経営体質に転じていたとはいえ、クラブの自力ですぐ解消できる額ではない。

 最終的には増資、デット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)などの資本政策でレバンガは債務超過を解消する。オーナー企業から設定された売上などのハードルを、経営陣と社員がクリアした結果だった。

 横田は経営体質改善に向けた苦心をこう振り返る。

「あったらいいな、は全部やらずにとにかくコストをかけませんでした。(ベンチ入り選手)7人でけん責処分にもなってしまい、本当にチームに迷惑をかけましたが、厳しい1年目でもなんとか最終的に利益を出して、2期目も黒字になってきたあたりから、ちょっと(周りの)見方が変わってきたかなと思います」

 4季目の今季は「勝てるチーム作り」にかじを切った。

「ファンマーケティングの中で、2000人程度のサンプルで、いくつかの分析をした結果、来場動機につながる「誘いやすさ」の項目の中で改善しなければいけない重要な項目の一つに『試合の結果』がありました。足を運ぶ源泉として『誘われる』ことは大きな要因です。でも調査の結果を見ると『負ける確率のほうが高いチームの試合を見に行こうよって友達を誘えません』と。今までは、勝っても負けても楽しんでもらえる空間を作るのが前提だったけれど、そこまで(調査の)結果として出ている以上、ある程度の投資は必要だなと考えました。ステークホルダーとの関係構築に関しても、勝利を求められるのは当然なので。それでも(チーム人件費を全体売上の)30〜35%にとどめているので、過度な投資ではないと思っています」

 オールスターの開催については、こう期待を口にする。

「まずオールスターを北海道に誘致する段階から、北海道や札幌市が前向きに協力をいただき、これまで以上の関係構築ができたことは非常に良かった。場所の決定後、札幌市が補正予算で追加捻出していただいたことで、様々な場所でシティドレッシング(※大規模イベントのPRなどのために、大型ポスターや電飾で街中を飾り立てること)も可能になった。バスケに興味のない方、レバンガを知らない方々の目に触れる機会が増えたこともプラスだと思っています。たくさんの方々がバスケ熱を体験し、成長性や可能性を言葉だけでなく、肌で感じてもらえれば、流れが変わると思っています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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