アンプティサッカー“一本足の哲学” 思いやりの精神と正確性が肝要

荒木美晴

アンプティサッカーはその名の通り、主に上肢または下肢の切断障害がある人たちによって行われるサッカー。国内では約100名の選手が活動している 【写真:荒木美晴】

「amputee」には「切断者」という意味がある。アンプティサッカーはその名の通り、主に上肢または下肢の切断障害がある人たちによって行われるサッカーだ。日常で使用する義足や義手を外し、フィールドプレーヤーは「クラッチ」で身体を支えながらプレーする。ゴールキーパーは上肢障害の選手が担う。障害の程度による持ち点制やクラス分けはない。パラリンピック競技ではないが、世界40カ国以上に普及し、国内には約100名の選手が活動している人気競技のひとつだ。

 スポーツナビは、陸上・十種競技の元全日本王者でタレントの武井壮さんがアンプティサッカーを体験する、NHKの取材に同行。他のサッカーとは一味違うアンプティサッカーの魅力について、特別ゲストとして参加した日本障害者サッカー連盟会長の北澤豪さん(元サッカー日本代表)や講師役の選手らのコメントを交えつつ、紹介する。

クラッチを使い、胴体をスイングしながら前進

 アンプティサッカーのピッチサイズは60m×40m。ゴールサイズは5m×2.15mで、少年サッカー用ゴールと同じのものを使用する。1チーム7人で、25分ハーフで行われる。タッチラインを割ったらキックインとなり、オフサイドはない。使用するクラッチは、日常の生活やリハビリ医療目的で使用しているものだ。このクラッチは「腕」と同じ扱いとなるため、プレー中にクラッチで故意にボールに触れると「ハンド」となる。

 はじめてアンプティサッカーを見た人はまず、フィールドプレーヤーがクラッチを巧みに操り、ピッチを走り抜けるそのスピードに驚くのではないだろうか。両手のクラッチを軸足のようにして、身体を振り子のごとく前後に揺らして移動するわけだが、とても片脚とは思えない早業だ。選手は身体を支える上半身の力とバランスを保つ強い体幹を日々鍛えているからこそ、一本足で動きながらパスやシュートを放つことができるのだ。

 フィールドプレーヤーがシュートを放つ際、ゴールキーパーの腕のない方を狙うのがセオリーだ。また敵と競り合う際は、相手選手のどちら側の脚があるかないかで自分のポジションを変え、どうボールコントロールするかの判断を瞬時に行っているという。それは味方に対しても同じで、パスは受け手の脚の使い方にあわせて出し、受け手側もそれを予測してポジションを取るという、サッカーの基本的要素でもある「思いやり」の精神がより必要になるそうだ。このチームメートとの息のあったコンビネーションも、アンプティサッカーの見どころのひとつだろう。

日本障害者サッカー連盟会長として、さまざまな障害者サッカーに精通する北澤さん(中央) 【写真:荒木美晴】

 日本障害者サッカー連盟会長として、あらゆるサッカーに精通している北澤さんはこの日、体験を通して改めてアンプティサッカーならではの面白さに触れたといい、こう振り返ってくれた。

「片脚であるということは、味方へのパスがちょっとずれただけで受け手は動作を増やさないといけません。すると、体力を消耗する。ゴールに向かうスピードが落ちてしまうのは、そうした小さな差の部分ですね。だから、一本足だからこそ、味方に対して“そのあたり”じゃなくて“そこ”にボールを出す正確性を持ち合わせていないと、チームとしては勝てないんだろうと思いました。そして、それを支えるのが肉体の強さ。体験するとより分かりますが、一本足でしなるように動き、プレーするには、体幹と上半身の強さがないとできない。他の競技においてもそこは重要なことろだけど、この競技はより求められると思いましたね」

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著者プロフィール

1998年長野パラリンピックで観戦したアイススレッジホッケーの迫力に「ズキュン!」と心を打ち抜かれ、追っかけをスタート。以来、障害者スポーツ全般の魅力に取り付かれ、国内外の大会を取材している。日本における障スポ競技の普及を願いつつマイペースに活動中

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