連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

寺内健が身を捧げる「儚く美しい1.6秒」100%練習通りの演技こそが飛込の真骨頂

C-NAPS編集部

中国・イギリスの2強と飛込界の逸材・玉井陸斗に注目

兵庫県宝塚市出身と同郷で、同じ練習拠点の後輩でもある玉井陸斗(右)は、寺内も太鼓判を押す注目の逸材だ 【写真は共同】

 五輪で注目すべき国は、「飛込大国」の中国とシンクロが強いイギリスですね。中国では国を挙げて選手を育成するほど、飛込はメジャー競技で練習環境も最先端。五輪でメダルを獲得すれば一生安泰な暮らしができます。出場する全員が五輪でメダルを取れるだけの実力者だけに、彼らのパフォーマンスは本当に圧巻です。

 そんな最強国・中国に対抗するのがイギリスで、16年リオデジャネイロ五輪ではシンクロ板飛込で金メダルに輝きました。五輪という最高の舞台で、圧倒的な同調性を披露して本当に驚かされましたね。僕は坂井丞(しょう/ミキハウス)とのペアでシンクロの東京五輪出場権を獲得していますが、二人が同じテンション、同じ呼吸、同じ熱量で合わせるのは本当に難しいことなんです。だからこそ、イギリスを超える同調性や美しさを発揮できれば、僕らのペアもメダル獲得のチャンスは十分にあると思います。

 後は僕の後輩でもある玉井陸斗(JSS宝塚)にも注目してください。今年の4月にデビューを飾ったばかりですが、13歳という若さで男子高飛込最年少日本一にも輝いています。彼は今までの日本人にはない天才的なスキルを持っていますね。世界トップクラスの技もできるし、日本選手権ではノースプラッシュを連発しました。ウィークポイントだった後ろ向きの回転系もコーチとともにしっかりとテコ入れし、完璧に克服しています。来年の4月にワールドカップがありますが、そこで東京五輪内定が決まるかもしれません。恐るべき逸材です。

6度目の五輪で目指すのはもちろん、悲願のメダル獲得

6度目の五輪で目指すのはもちろんメダル獲得。寺内は坂井とペアのシンクロ、そして個人で悲願達成を目指す 【写真:C-NAPS編集部】

 今年(19年)は7月にシンクロ、9月に個人の五輪出場が内定しました。早く決まったことで本番までの準備に多くの時間を割けます。偶然にも「東京五輪内定第一号」となりましたが、そのことで飛込という競技への注目度が少し高まった気がします。中国や欧米と比べると、国内での飛込の認知度はまだまだ低いので、メディアに取り上げていただくことで興味を持ってもらえる人が増えたことはうれしかったですね。

 僕は過去に5回五輪に出場していますが、何度出てもやはり特別な舞台です。09年の引退後、11年に30歳で現役復帰を決めたのは「五輪を目指す」という目標があったから。五輪でメダルが取れなかったことが唯一の心残りでしたね。もっと言うと、日本の飛込選手がこれまで誰もメダルを取ったことがないので、「自分が取りたい」という気持ちが強かったんです。

メダル獲得の可能性がより高いのは坂井(左)とともに出場するシンクロ。五輪本番で抜群の同調性を見せられるのか 【Getty Images】

 東京五輪でメダル獲得の可能性が高いのはシンクロです。飛込の採点方法は毎年少しずつ変わっていて、近年は「美しさ」に対して高得点が出やすいのが“トレンド”。世界では難しい技を選ぶ選手が多いのですが、高得点につながりやすい反面、失敗するリスクもあります。僕と坂井ペアは他国よりも一段簡単な演技構成を選んでいます。難易度の高い技にチャレンジするよりも、回転の途中の「同調性」と「美しさ」にこだわっているからです。

 例えば、「えび型」と言って、膝を伸ばして回転する技の美しさには自信を持っています。7月の世界選手権でも二人のシンクロが評価されたので、「美しさを極める」という考えがトレンドの中で自分たちのやってきたことが間違っていなかったという自信にもなりましたね。今後の10カ月は五輪でのメダル獲得に照準を合わせて、自分たちの強みである「同調性」と「美しさ」を極めていきたいです。

 シンクロに関しては、世界で5本の指に入っていると思いますが、個人ではギリギリ10本の指に入るかどうか。上位の選手たちはみな強いのですが、それでも「世界と戦える」という実感はあります。五輪は出場回数を重ねるごとに難しさを実感していますが、五輪は難しいものだと「知っている」ということは僕の強みです。今までのキャリアや経験値、そして自国開催でみなさんの応援を全て力に変えて戦おうと思っています。そうすればメダル獲得も夢ではないと信じています。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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