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日本男子バレーが見せた復活への序章
それでも「この結果に誰も満足していない」

見逃せない「ミドルブロッカーの躍進」

高橋(写真中央)ら、ミドルブロッカー勢の活躍も見逃せない
高橋(写真中央)ら、ミドルブロッカー勢の活躍も見逃せない【写真は共同】

 チーム間の刺激という面に着目すれば、サーブだけでなく、躍進の大きなポイントになったのがミドルブロッカーだ。


 開幕当初は山内晶大、小野寺太志をスタートで起用し、4戦目からは山内に代えて高橋健太郎を抜てきした。共に高さでは世界と劣らぬ2人だが、小野寺はブロックと攻撃の両面に加え、サーブ力でも抜群の安定感を発揮。一方の高橋は攻撃力においても高いポテンシャルを期待されながら、これまではなかなか殻を破れず。昨年の世界選手権も直前のケガでチームを離れ、スタートラインに立つこともできずにいた。


 今大会も肩の状態は万全ではなく、中垣内監督も「肩の影響も含め、サーブが安定しなかったので起用をためらった」と話していた。だが、アメリカ戦では大会のベストミドルブロッカーに選出されたマックスウェル・ホルトの上からたたき込む攻撃や、ブロックで一気に覚醒を見せた。


「ずっと出られなくて、もうダメかな、と思ったこともありました。でもその状況でも腐らず、『出たい』と思い続けてきた。今やっと、ブロックも攻撃もつかみかけているところだと思うので、もっともっと自分に何ができるか、できないかを極めたいです」


 そう力強く語る高橋が自信をつかめば、他のミドルブロッカーには脅威となり、個々の力を高め、チームの力も上がる。イラン戦では高橋に代わって山内が入り、攻撃、ブロックの両面で存在感を出した。攻撃の速さを意識するあまり、「これまでは助走に意識が向いて、自分の強みも消えていたけれど(イラン戦では)考えすぎずに自分の得意なコースへ打った」という山内のスパイクがさえ、勝利を決めるビクトリーポイントとしてセッターの関田誠大が選択したのも、山内の攻撃だった。


 サーブが走れば相手の攻撃パターンが削られ、成長を遂げたミドルブロッカーがスパイクコースを絞り、レシーブ力も上がる。さらにそのボールをセッターの関田と藤井直伸が伸びやかなトスでつないでいく。攻撃陣もサイド一辺倒にならぬよう、ミドルも含めた前衛・後衛がさまざまな場所から同時に攻撃準備に入ることで、相手ブロックに的を絞らせない。


 初戦のイタリアのみならず、ロシアやアルゼンチンなど並み居る強豪に対しても堂々と渡り合い、勝利を収める。着実に進化を遂げるチームを、主将の柳田はこう評した。


「苦しい試合やセットを取りきれた、勝ちを取れたというのが自信になっていると思うし、いろんな選手が入って出入りしている中で結果が出ているのは、役割分担も確立しているということ。試合を重ねるごとに全員の役割が再確認できた結果、より1つ1つの勝利にも価値が生まれたと思います」

「3敗」とどう向き合っていくか

今大会で喫した「3敗」をどう今後につなげるかが、さらなる躍進への鍵となる
今大会で喫した「3敗」をどう今後につなげるかが、さらなる躍進への鍵となる【写真は共同】

 ただし、これでいい、これが十分、とは誰も思っていない。北京五輪以後二度の五輪出場を逃し、女子の後塵を拝してきた男子がW杯で8勝3敗と過去最高の勝利数を挙げた事実はあっても、世界でメダルを獲れるか、と言えば、安易にイエス、と答えるのは楽観的すぎる。


 本当の意味で世界と渡り合うためには、W杯で喫した「3敗」とどう向き合い、抽出した課題と向き合い、どれだけ進化していけるか。石川はこう言う。


「ポーランド、アメリカ、ブラジルと強豪国には勝てなかった。そこに僕たちとの差があると感じています。ブラジル戦のように競り合うところまではいけるので、これまでよりもチャンスは大きいと感じていますが、メダルを獲るという目標には到達できなかった。浮かれている暇もないですし、すぐにオリンピックも迫っているのでやることはたくさんある。大事な場面で確実に取り切ることも含め、東京オリンピックに向けてしっかり課題を詰めて、戦っていきたいです」


 石川や西田の攻撃力の高さは確かに際立った。だが、終盤になれば西田への対策も練られ、マッチポイントでブロックに屈するなど明確な課題も突き付けられた。石川は攻撃の軸であることに加えて、サーブレシーブのみならず、セッターがレシーブした後のセットアップ、ブロックフォローやチャンスボールのつなぎまでこなした。状況判断や基本技術に長けているからこそ、担う役割と運動量や負担も増え、体力も消耗。石川自身も「終盤はジャンプも落ち、連戦を乗り切る体力面が自分の課題」と口にした。


 他の出場国を見渡せば、上位の3カ国に限らず、東京五輪や年明けの最終予選にターゲットを絞り、コンディショニングを重視して主力選手の出場を見送ったチームのほうが多い。各国が万全な状況で臨む五輪で、ホームアドバンテージを持つ日本にどう勝つか。当然ながら、石川や西田への対策は今とは比べ物にならないほど厚くなるのは想像に難くない。


 また、全勝でW杯を制したブラジルに象徴されるように、強豪と称される国々は、相手がウィークローテだと見れば2枚替えやリリーフサーバーを投じる戦力と、そこで戦術を遂行する力を備える。いつ誰が出ても同じように戦い、チーム力を発揮できるかと言えば、残念ながらまだ日本はそのレベルに達していないのも現実だ。


 課題を挙げれば数えきれないほどにある。だが、これほどまでにワクワクする、高揚させる力を持った日本代表を見る機会は久しくなかった。


 だからこそ、これから――。柳田が言った。


「この結果に誰も満足していないし、ブラジル戦も『善戦だった』ではなく、みんな本気で悔しがっていました。数字に出ない1本や小さな失点、その一歩が小さいようで大きな一歩でもあるし、そこを詰めない限り少なくとも肩を並べることはできない。この3敗は次につながるものだったと、負けをネガティブではなくポジティブに見つめ直して、チームとして強くなりたいです」


 見上げるばかりだった世界と、肩を並べて渡り合う。わずかに差す光明ではなく、このW杯で見えた確かな光を未来へつなげるために。


 男子バレー日本代表が、大きな一歩を踏み出した。

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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