日本男子バレーが見せた復活への序章 それでも「この結果に誰も満足していない」

田中夕子

自然に沸き上がった「ニッポンコール」

W杯で初の8勝を挙げた日本。復活への手応えを感じさせた大会となった 【写真は共同】

 世界王者にも、真っ向勝負で勝ちに行った。

 バレーボール男子ワールドカップ(W杯)も残り2戦。勝てば優勝が決まるブラジルと、勝利すればメダル獲得の可能性が最終日までつながる日本。第1セットはブラジルに取られたが、第2セットは20-17で日本が3点をリード。ブラジルが2度目のタイムアウトを要求した時。

 音楽も、MCの煽りもない中、場内に響く、自然発生の「ニッポン」コール――。

 アイドルがいるからでも、特別な選手がいるからでもない。世界に挑むべく、3シーズンをかけて積み重ねてきた成果が目に見える熱となり、会場を包んだ。

 結果は、経験と自力で勝るブラジルが接戦を制し、日本のメダル獲得はついえた。だが、その敗戦にうつむくのではなく、皆が迷わず同じ思いを抱いた。

 これは、男子バレー復活への序章だ、と。

 選手生命をも脅かす大けがから復帰を果たし、07年から4大会目となるW杯出場を果たした清水邦広が言った。

「僕たちはどちらかというと低迷期、世界に勝てないと言われた代表として過ごした時間のほうが長かったし、お客さんも見てくれる人も少なく、世界との壁を痛感する時期もありました。それでも苦しい中やってきて、今は日本のバレーボールも進化して、生きのいい若手、世界と戦える戦力がどんどん出てきた。こうやって世界の壁を打ち砕いた日本代表が見られて、バレーボール界の未来、将来は明るいと思いました」

必要不可欠となった西田の存在

西田は今大会を通じて29本のサービスエースを決め、中垣内監督も絶賛するパフォーマンスを見せた 【写真は共同】

 全11戦で8勝3敗。過去をさかのぼっても、8勝を挙げたのはこれが初めてだ。

 とはいえ従来のW杯とは異なり、上位国に五輪出場権が与えられるわけでもなく、すでにポーランド、アメリカ、ブラジル、ロシア、イタリア、アルゼンチンの計6チームは来夏の東京五輪出場を決めている。しかも直前までヨーロッパ選手権が行われていたこともあり、ロシアやイタリアはセカンドチームで、ポーランドも主将のミハウ・クビアクや、キューバから帰化したエースのウィルフレド・レオンは大会途中から合流した。他国の戦力を見渡せば、確かにすべてがベストだったとは言い難い。

 だが、その状況を差し引いても、今大会の男子日本代表は強かった。

 対戦国の監督たちは「日本は確実に進化した」と口をそろえ、アジアの頂点を争うイランのイゴル・コラコビッチ監督はこう言った。

「サーブ、サーブレシーブ、ディフェンス、オフェンス。すべてがイランよりも素晴らしく、勝つのは当然。このような状態の日本と戦うのはとても難しかった。こんなにいい状態である日本を見るのは初めてで、信じられないぐらい素晴らしいチームになった」

 快挙、というのは少々大げさかもしれないが、躍進であるのは間違いない。

 ではその背景は何か。エースとして、攻守に渡り活躍を見せた石川祐希は、2つのポイントを挙げた。

「サーブがいいので、そこでブレイクができる。多少点差が離れていても、サーブで点を取れる、と自信を持てているのが大きいと思います。そしてもう1つはミドルの存在。ブロックも止めているし、クイックの打数も増えた。ミドルの重要性を改めて感じましたし、初戦(イタリア戦)からいい形で勝てたことで勢いに乗った。メダルに対しての意識も高くなり、いいパフォーマンスが発揮できていたと思います」

 日本のみならず、現代バレーにおいて勝敗を左右する大きな要素になるのがサーブだ。ジャンプサーブで得点を取るビッグサーバーは当然大きな武器となる。それに加え、攻撃準備に入る助走コースをふさぐような戦略サーブを打てる選手をバランスよく配置し、時にはミスのリスクを負いながらもどれだけ攻められるかが重要なのだ。

 高さという絶対的な武器を欠く日本にとって、サーブで攻撃を絞り、守備隊形を整えるのは必要不可欠。中垣内祐一監督が就任した2017年からサーブ力の強化を掲げてきたが、特に昨季から今季にかけての進化は著しい。その理由の1つが、石川や柳田将洋が世界と渡り合うビッグサーバーへと成長を遂げたことに加え、昨シーズンから日本代表のオポジットとして攻撃の主軸を担う西田有志の存在だ。

 昨年、イタリアで開催された世界選手権でも西田のサーブは大きな武器ではあったが、今大会では全11試合を通して29本のサービスエースを記録し、サーブランキングは1位。5本のサービスエースで勝利に貢献したロシア戦後は西田自身も「感覚をつかめた」と自信をのぞかせた。そして最終日のカナダ戦に至っては、2枚替えでの出場に留まりながらも最終セット、9-9から5本のサービスエースを含む6連続得点。中垣内監督も「(西田は)世界のトップサーバーの1人。とんでもないものを最後に見せつけられた」と笑みを浮かべ、手放しで称えた。

 サーブは個の技術とはいえ、西田や石川といったサーブで得点できる力を持った選手がそろったことで、チームにもたらされた効果。これまで常にサーブを課題と掲げながらも、ロシア戦では西田に次いで石川と共に2本のサービスエースを取った福澤達哉はこう言った。

「怖いもの知らずで攻める若い選手の存在は強みで、それがチームにとってキーポイントであるのは間違いない。僕は彼らのようなサーブを打てないけれど、戦術として狙うポイントがあり、ミスを抑えながらそこでいかに崩すかが自分の役割。それぞれ、お互いに刺激を受け合うことも、チームにとってプラスの影響が生まれている要素だと思います」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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