日本代表が強豪に“普通に”勝てた理由 元日本代表・藤井淳のスコットランド戦解説

構成:スポーツナビ

内容が濃かった福岡のトライ

相手からボールを引き抜き、一瞬浮いたボールを捕る福岡。ここから50メートルを独走してトライを奪った 【Photo by Yuka SHIGA】

――前半39分にはラファエレ選手のキックから福岡選手がトライを決めました。

 あのトライは内容が濃いトライでした。それまでボールを切り返す攻撃が多かったのですが、あのプレーでは一気に外に回しました。スコットランドは日本の切り返す攻撃に慣れていてボールに寄ってしまって対応が遅れました。
 また、日本は「ここは蹴るかな?」という場面でもボールを継続していたので、スコットランドはボールを一気に展開されたところで裏にいた選手があわてて上がってきました。それを見てラファエレ選手がスペースにボールを転がしてトライにつながったので、選手の状況を見る目とスキルの高さが生きたトライだったと思います。
 そういう意味でも前半は戦術で圧倒していましたね。素晴らしかったです。

――後半も開始直後に福岡選手が相手ボールを奪ってトライを追加しました。

 スコットランドはボールを大きく展開する攻撃がうまく、あの場面でも相手選手の方が多かったのでパスを通されるとピンチになる可能性もありました。
 それでも福岡選手が味方のDFラインに合わせて、勇気を持って上がったのがまず良い判断で、そこで相手の腕からボールを引き抜いたスキルも優れていました。相手からボールを奪うのはロシア戦でFL(ピーター)ラブスカフニ選手も見せていましたが、現代ラグビーでは重要なスキルになっています。

苦しい時間帯に奮闘した途中出場の選手たち

力強いプレーで貢献した途中出場のPR中島イシレリ 【Photo by Yuka SHIGA】

――そのあとは後半9分、15分と連続トライを奪われ、厳しい時間帯となりました。

 前半からあれだけのペースでボールを保持していたので、疲労はあったと思います。スコットランドは展開力がありますし、そこで使うキックも非常にうまいので、ボールを持たせる時間が長いと苦しくなりましたね。
 2つのトライはともにSO田村(優)選手のタッチキックを相手がクイックスローで入れてくる攻撃から始まったものでした。苦しい時間帯は1メートルでも遠くに蹴ってチームを楽にしたいという気持ちがあったと思いますが、距離は多少短くても、相手がクイックスローをできないエリアまで蹴った方が良かったと思います。

――あれだけ流れが変わりながらも粘れた要因は?

 途中出場の選手たちが効いていました。リザーブと呼ばれていますが、控えというよりもインパクトプレイヤーとしてチームに新たな力を与えています。
 先発のSH流(大)選手は非常に良くて、早いテンポをつくり出していましたが、あのペースでボールをさばき続けるのは体力をかなり奪われたはずです。そこで良いタイミングで田中(史朗)選手に代わりました。田中選手は早いテンポも、落ち着かせることもできますし、経験豊富なので流れが悪い中でも冷静にゲームを組み立てました。

 また、PR中島(イシレリ)選手、ヴァル(アサエリ愛)選手、LOヘル(ウヴェ)選手は彼らにしかできない仕事をしてくれました。相手DFがプレッシャーをかけてくる中でしっかり当たって、一歩でも前に出る。この彼らの突進が勝利につながったと思います。
 今大会でラグビーを見始めた方は「前半みたいに大きく展開すれば……」と思うかもしれませんが、FWが密集の近場で前に出ることで相手DFを内側に寄せることができます。FWが何度もアタックして1メートルでも前に出るからこそ、外側にスペースが生まれているのです。

一番体を張っていたリーチ主将

体を張り続けた日本代表のリーチ主将 【Photo by Yuka SHIGA】

――東芝の同僚でもあるFLリーチ マイケル選手のプレーはどう見ましたか?

 素晴らしいの一言です。試合前の会見で「鬼になる」という言葉もあって強い言葉だったので「マイケル、気合が入りすぎかな?」と心配していたんですが、一番体を張って、一番態度で示していたと思います。
 見ていて「どうしてそんなに……」と思うほどタックルしていましたし、彼の危機管理能力が生きていました。
 責任を背負いすぎでは?と心配になるほど自分に責任を持つ男で、自分で自分を成長させてきました。そこに東芝が貢献できていればうれしいですが、どのチームにいても彼は自分にフォーカスして成長していたと思います。

――全国的に台風の被害があり、試合が開催されるかもわからない状況で、選手は難しかったと思います。

 マイケルも試合後にまず被害を心配するコメントをしていましたし、かなり大きな台風だったので選手自身も家族のことなど心配だったと思います。
 また、当日朝まで試合があるかどうか決まっていないという経験はほとんどないので、選手は気持ちの作り方が難しかったはずです。それでも、勝って日本のラグビーの歴史を変えるという気持ちになったからこそ、今日の最高の結果につながったと思います。

 4年前に南アフリカ代表を破ったことで、チームがスタートする際のメンタル面が一段階上がって、今回はアイルランドとスコットランドという強豪に勝つべくして勝ったというのが素晴らしいところですね。

――準々決勝はその南アフリカが相手となります。

 ここで当たるのは運命的なものを感じます。4年前から成長した姿を日本は見せてくれると思いますし、南アフリカも借りを返すために必死になってくると思います。ただ、南アフリカはアイルランドかスコットランドが相手の方がやりやすかったでしょう。

 日本にはホームの応援があって、今日の試合もそうですが、80分間後押ししてもらっています。今は「どうせ勝てないだろう」と思っているファンはいないはずで、ここも昔とは違うところです。
 大きな期待はプレッシャーにもなり得ますが、今の日本代表はそこを乗り越えてくれると思いますし、南アフリカ相手にも十分に戦えると思うので、素晴らしい戦いになることを期待しています。

(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)

藤井淳/JunFujii

東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】

 1982年8月10日生まれ。身長170センチ、体重77キロ。愛知県出身。西陵商高‐明治大‐東芝ブレイブルーパス。

 西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。

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