世界陸上で見えた各国代表の暑さ対策 東京五輪への教訓とは? 海外識者が分析

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中止の可能性を発表する是非

今大会で精力的に取材を行ったヤマウチさん。女子マラソンの現場では相当な暑さを感じ「中止になるな」と感じたという 【スポーツナビ】

 一方のヤマウチさんは「東京にいたときを思い出したら、夏はたまにすごく苦しい日がありましたが、毎日ではなかった気がします。ドーハは東京より暑い日が毎日続きますね(笑)」と話した。今回のレースを身をもって体験した選手たちは、それ自体が東京五輪への大きなアドバンテージにつながるはずだ。

 国際陸連は今大会のロードレース期間中、「ヒートストレスプロジェクト」という取り組みを実施。これに賛同した選手たちは、レース前に超小型のカプセルを飲んでいた。その中には体温を記録する温度計が入っており、レース中の体温の変化を詳細に記録。「男子マラソンと競歩が行われる前の時点で、50人以上の選手がボランティアとして参加していたようです」と、ヤマウチさんは教えてくれた。国際陸連によると、2〜3週間後には完全なデータが分析できるとのこと。実際に走った選手たちのデータは、東京五輪での安全な競技運営において、何よりの資料になるに違いない。

 大会初日に行われた女子マラソンでは、フランスメディアが高温多湿を理由に中止の可能性を報じるなど、ギリギリまで開催されるかどうか分からなかった。国際陸連は当日に「レースの開催については、22時30分にメディカルスタッフが最終決定する」と、異例の声明を発表。実際には予定通り行われたが、ヤマウチさんは「天気が非常に厳しかったので、運営側も選手の安全を十分に考えている、ということを伝えたかったのだと思います」と前置きした上で、こう話した。

「実際にレースを行うのか、行わないのかという噂は現地でもまん延していました。選手としては不安だったと思います。女子マラソンの日は、私自身も暑さを感じていたので、本当にスタートするまで『中止になるな』と思っていましたね。こんな大舞台で中止になってしまうのかというショックがあるし、ここまで来た選手が(中止になると)すごくかわいそうですよね。

 東京でももちろんお医者さんのアドバイスをいただいた上で中止するのか、しないのか検討されると思うのですが、本当に中止する可能性が高いのなら、あまり発表しない方がいいのかな、と思いました。運営側が選手の健康面を考えるのはもちろん大事ですが、中止する可能性を考えると、アスリートにとってはマイナスになってしまうこともあります」

大事なのは「心構え」を伝えていくこと

過酷なレースを戦った経験は、他の選手に伝えることで必ず東京に生きてくるだろう 【写真:ロイター/アフロ】

 ファヴァさんは、今回のレースから学ぶべきことについて「ドーハで走った経験というのは、必ず東京に生きてくるはずです。本人が東京を走らなかったとしても、自分のチームメートに経験を伝えることができます」と話す。これだけ過酷なレースを戦ったことで、自分の体がどう変化したのかは、本人にしか分からない貴重な情報である。

「その中でも一番大事なのは体力面ではなくて、このようなところで走る精神的な心構えが大きいと思います。レースを戦い抜くために大切なのは知識と経験です。たとえば女子マラソンを走った選手が、自分の経験を同国の男子選手に伝えるというようなことも、大事になってくると思います」と、穏やかながらも熱い口調で語ってくれた。

 さまざまな形で暑さへの対策を練り、過酷なレースに挑戦し、その詳細なデータを記録していく。そして、自らの体験を東京に挑む選手たちに伝えていくことこそ、ドーハが残す何よりの「レガシー」になるのだと、今回、話を聞いた2人は教えてくれた。

 次なる大舞台が幕を開けるまで、残り300日を切った。真夏の東京で行われるスポーツの祭典は、すぐそこまで迫っている。アスリートたちが最良のパフォーマンスを発揮するために、残された時間の中でどのような準備が必要か。そのために、選手に伝えられるべきこととは何か。しゃく熱のドーハで学んだことを糧に、引き続き考えていくことが重要だろう。

(取材・文:守田力/スポーツナビ、取材協力:K Ken 中村)

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