京大卒の頭脳派はなぜ「金」をつかめたか 競歩・山西利和が他選手と違う2つの長所
“勝利の方程式”をほぼ完ぺきに実行
男子20キロ競歩で金メダルを獲得した山西利和。京大卒の“考える”ウォーカーはなぜ栄冠を手にできたのか 【写真:ロイター/アフロ】
陸上の世界選手権第8日が現地時間4日、カタール・ドーハで行われた。男子20キロ競歩で、今季世界リスト1位の山西は中盤から独歩態勢に入り、最後までペースを緩めることなく1時間26分34秒でゴール。金メダルに輝き、20キロでは五輪・世界選手権を通じて日本初となるメダルを獲得した。世界選手権で日本勢が複数の金メダルを獲得するのは史上初の快挙。また、日本陸連の規定を満たし、東京五輪の代表にも内定した。
池田向希(東洋大)は1時間29分2秒で6位入賞。高橋英輝(富士通)はラスト500メートル地点をゴールと勘違いした影響で時間をロスし、1時間30分4秒で10位に終わり、惜しくも入賞を逃した。
山西は、思い描いてきた“勝利の方程式”をほぼ完ぺきに実行した。スローペースでスタートすると、7キロ手前で集団を抜け、すぐに先頭を走っていた王凱華(中国)を捉えた。「僕の良さを生かすために、ある程度削れた状態でのラスト勝負に持っていく必要があると思っていました」。宣言通りに8キロ地点で1キロを4分15秒に上げて後続を引き離しにかかると、その後はしばらく1キロ4分20秒ペースを維持し、独歩状態に入っていく。
連日の猛暑はこの日も容赦なく会場を襲い、スタート時で気温32.9度、湿度80.5%の悪条件。山西も「後半お腹にズシンと来る感じがありました」と苦しめられながらも、こまめな給水に加え、頻繁に首に巻いた保冷剤を取り換えるなどして、影響を最小限に食いとめた。そして、15キロ地点から一気にスピードを上げて勝負を決めにかかると、「秒差は常に意識して歩いていました」と冷静に後続との差を確認しながら、見事に1位でフィニッシュ。歩き終えた後はガッツポーズを取ることなく、すぐに後ろを振り向き、コースに向かって深く一礼した。
「まだちょっとやり切れない」
「勝ったんですが、ラスト3キロで『いききれないな』という部分がありました。偶然相手が来なかっただけなのかなと思って、追い付いてくるような相手と勝負するとなった時に、あれでは勝てないかな、と。どういう形であれ、ラストはいくと決めていた以上は、やっぱり自分の気持ちに弱さがあると思います」
京都・堀川高から現役で京都大工学部に入学した頭脳の持ち主。京大卒のメダリストとなったことについては「(1936年ベルリン五輪の男子三段跳び金メダリストである)田島直人さんという方がいらっしゃるので、僕は二番煎じです」と周囲を笑わせた。
その受け答えは、時に“禅問答”のようだと感じることがある。2日に事前会見が行われた時、男子50キロ競歩で鈴木雄介(富士通)が初の金メダルを獲得した感想を聞かれると、「感想……難しいですね」としばし考えこんだ。決して軽率な言葉は口に出さず、どこまでもストイック。
だが、山西を指導する内田隆幸コーチは、「(金メダルを獲得しても)悔しい、と思えることが次につながる。それが(山西と)他の選手との違いです」と、その性格こそが強みだと語る。
また、言われた指示を頭の中へ落とし込み、すぐに自分の動きに反映する能力にも長けている。「きょうも歩きながら修正しましたね。15キロを過ぎてからの一番大事なところで、『ちょっとかかとが上がってきている。反則を取られるぞ』と声をかけたら、すぐに(かかとを)つくようになりました。そこもやっぱり他の選手と違っています」と内田コーチ。この2つの長所が、山西を金メダルに導いた要因と言えるだろう。