オールブラックスに見た「ラグビーの理」 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月2日)
ホストシティ大分を支える2002年のレガシー
大分会場で出会ったニュージーランドのファン。笑顔の中にも王者としてのプライドが透けて見える 【宇都宮徹壱】
大分駅に到着して、すぐさま視界に飛び込んできたのは、大会のインフォメーションブースやモニュメント、そして外国人を案内するボランティアスタッフの姿である。2002年の時と比べて、ホストシティとしての勘どころをしっかりと押さえている印象。これもまた、ひとつのレガシーと言えよう。17年前、イタリア対メキシコの試合が開催された時には、繁華街の多くの飲食店が日没と同時にシャッターを下ろしたそうだ。今となっては笑い話だが、当時の大分の人々が、おっかなびっくりW杯を迎えた光景が目に浮かぶ。
ところで今大会、九州では3都市が開催地に選ばれている。このうち熊本が2試合、福岡が3試合なのに対し、大分では5試合。東京と横浜に次いで試合数が多いのは、大分県の広瀬勝貞知事が招致に積極的だったことに加え、スタジアムとW杯開催の経験という2002年のレガシーが大きかったと見るべきだろう。この日、大分スポーツ公園総合競技場で行われるのは、ニュージーランド対カナダ。大分でのファーストゲームに、優勝候補筆頭のニュージーランドを引き当てたのも、何やら必然めいたものを感じる。
そんな大分だが、唯一の懸念材料が会場までのアクセス。昨年11月に行われたサッカー日本代表の試合では、チームバスが渋滞に巻き込まれて到着が遅れ、大問題となった。今大会は大丈夫なのだろうか。運営サイドに近い人に尋ねたところ「今回は行政が入っていますから大丈夫です」。聞くところによると県は、試合当日のマイカー通勤自粛を6月から呼びかけており、会場周辺では交通規制も実施されるという。果たして、サッカー代表戦でのリベンジとなるのか。まずはそこから注目することにしよう。
好対照なカナダとニュージーランド
こちらはカナダのファン。ラグビーの世界では地味な存在だが、過去のすべてのW杯に出場している 【宇都宮徹壱】
さて、今回の対戦カードについて見てみよう。「オールブラックス」の愛称で知られるニュージーランドは、もはや多くを語る必要はないだろう。歴代最多となる3回のW杯優勝を誇り、今大会は11年と15年に続く史上初の3連覇を目指している。何よりすごいのが、07年のフランス大会を除く、すべてのW杯においてベスト4以上の成績を残していること(07年大会は開催国のフランスに準々決勝で敗れている)。サッカー界のブラジル代表のような存在だが、W杯での勝率の高さはブラジルをはるかにしのぐ。
対するカナダは、ラグビーの世界での知名度は今ひとつという印象。それでも彼らが誇れるのは、第1回大会からすべてのW杯に出場していることだ。しかも予選が免除された第1回と第3回大会(前回大会でベスト8になったため)を除く、すべての大会の予選を勝ち抜いての出場。ちなみにオールブラックスは、過去8大会はいずれも本大会から出場している。ラグビーのW杯はサッカーとは異なり、前回大会の上位チーム(大会によって基準が変わる)は予選が免除される。実に好対照な両者による対戦と言えよう。
オールブラックスによる勇壮な『ハカ』がドームに反響し、4万人収容のスタンドが一斉に沸く。19時15分、キックオフ。ここから観客は、ニュージーランドの別格の強さを思い知らされる。前半4分、スクラムでカナダを圧倒してペナルティートライを得ると、8分、16分、35分にもトライ。そこで得た3本のコンバージョンも、リッチー・モウンガがすべて成功させた。すべてにおいて美しく、あらゆる場面で抜かりなく、それゆえに無慈悲。ニュージーランドは前半だけで、早々にボーナスポイントを獲得した。