オールブラックスに見た「ラグビーの理」 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月2日)

宇都宮徹壱

ホストシティ大分を支える2002年のレガシー

大分会場で出会ったニュージーランドのファン。笑顔の中にも王者としてのプライドが透けて見える 【宇都宮徹壱】

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会2019は11日目。前日の10月1日はノーマッチデーだったので、神戸から大分への移動日に充てた。道中、海外から来日した多くのラグビーファンの姿を見かける。まさにW杯ならではの光景。ふと思い出されるのが、2002年のサッカーW杯である。サッカーとラグビーという競技の違いはあるものの、自国で開催されるW杯であることに変わりはない。大分に向かう車窓を眺めながら、17年前の祭典の日々をあれこれ思い出している自分がいた。

 大分駅に到着して、すぐさま視界に飛び込んできたのは、大会のインフォメーションブースやモニュメント、そして外国人を案内するボランティアスタッフの姿である。2002年の時と比べて、ホストシティとしての勘どころをしっかりと押さえている印象。これもまた、ひとつのレガシーと言えよう。17年前、イタリア対メキシコの試合が開催された時には、繁華街の多くの飲食店が日没と同時にシャッターを下ろしたそうだ。今となっては笑い話だが、当時の大分の人々が、おっかなびっくりW杯を迎えた光景が目に浮かぶ。

 ところで今大会、九州では3都市が開催地に選ばれている。このうち熊本が2試合、福岡が3試合なのに対し、大分では5試合。東京と横浜に次いで試合数が多いのは、大分県の広瀬勝貞知事が招致に積極的だったことに加え、スタジアムとW杯開催の経験という2002年のレガシーが大きかったと見るべきだろう。この日、大分スポーツ公園総合競技場で行われるのは、ニュージーランド対カナダ。大分でのファーストゲームに、優勝候補筆頭のニュージーランドを引き当てたのも、何やら必然めいたものを感じる。

 そんな大分だが、唯一の懸念材料が会場までのアクセス。昨年11月に行われたサッカー日本代表の試合では、チームバスが渋滞に巻き込まれて到着が遅れ、大問題となった。今大会は大丈夫なのだろうか。運営サイドに近い人に尋ねたところ「今回は行政が入っていますから大丈夫です」。聞くところによると県は、試合当日のマイカー通勤自粛を6月から呼びかけており、会場周辺では交通規制も実施されるという。果たして、サッカー代表戦でのリベンジとなるのか。まずはそこから注目することにしよう。

好対照なカナダとニュージーランド

こちらはカナダのファン。ラグビーの世界では地味な存在だが、過去のすべてのW杯に出場している 【宇都宮徹壱】

 大分駅前に出現した、長い長いシャトルバスの待機列。そして次々と到着する、さまざまなデザインのバス。県内中のバスをかき集めたのではないかと思えるくらい、大分会場の移送作戦には並々ならぬ気合が感じられた。最後尾に並んでからバスに乗るまでが45分。バスの乗車時間は20分(交通規制のおかげで渋滞はなかった)。そして臨時駐車場からスタジアムまでが徒歩で15分。トータルで1時間20分かかった。今後、大分会場に行く方は、かなり余裕をもって出発することをお勧めする。

 さて、今回の対戦カードについて見てみよう。「オールブラックス」の愛称で知られるニュージーランドは、もはや多くを語る必要はないだろう。歴代最多となる3回のW杯優勝を誇り、今大会は11年と15年に続く史上初の3連覇を目指している。何よりすごいのが、07年のフランス大会を除く、すべてのW杯においてベスト4以上の成績を残していること(07年大会は開催国のフランスに準々決勝で敗れている)。サッカー界のブラジル代表のような存在だが、W杯での勝率の高さはブラジルをはるかにしのぐ。

 対するカナダは、ラグビーの世界での知名度は今ひとつという印象。それでも彼らが誇れるのは、第1回大会からすべてのW杯に出場していることだ。しかも予選が免除された第1回と第3回大会(前回大会でベスト8になったため)を除く、すべての大会の予選を勝ち抜いての出場。ちなみにオールブラックスは、過去8大会はいずれも本大会から出場している。ラグビーのW杯はサッカーとは異なり、前回大会の上位チーム(大会によって基準が変わる)は予選が免除される。実に好対照な両者による対戦と言えよう。

 オールブラックスによる勇壮な『ハカ』がドームに反響し、4万人収容のスタンドが一斉に沸く。19時15分、キックオフ。ここから観客は、ニュージーランドの別格の強さを思い知らされる。前半4分、スクラムでカナダを圧倒してペナルティートライを得ると、8分、16分、35分にもトライ。そこで得た3本のコンバージョンも、リッチー・モウンガがすべて成功させた。すべてにおいて美しく、あらゆる場面で抜かりなく、それゆえに無慈悲。ニュージーランドは前半だけで、早々にボーナスポイントを獲得した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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