オールブラックスに見た「ラグビーの理」 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月2日)

宇都宮徹壱

ラグビーにおける絶望的なまでの実力の格差

 前半は支配率で68:32、テリトリーで72:28、いずれもニュージーランドがカナダを圧倒していた。後半も攻撃の手を緩めることなく、チャンピオンはトライを重ねていく。後半1分に続き、4分に巧みなパス回しからトライを成功させたのは、ロックのスコット・バレット。この選手には、ボーデンという兄とジョーディーという弟がいて、いずれも今大会の代表メンバーだ。バレット3兄弟はこの試合、そろってスタメン出場して、全員がトライを決めた。オールブラックスは何から何まで、スケールが違いすぎる。

 さらに後半7分、10分、16分にもトライに成功。そのたびにスタンドオフのモウンガが、きっちりとコンバージョンを決めてみせる。これでスコアは63-0。いくら相手がニュージーランドとはいえ、10回もトライを決められたら、さすがにカナダもプライドが許さないだろう。「カナダ! カナダ!」というコールと手拍子が沸き起こる中、メイプルリープス(カナダ代表の愛称)は絶対的強者に果敢に立ち向かっていった。結局、63-0で試合終了。最後まで敢闘精神を見せたカナダには、勝者と同じくらいの拍手が送られた。そしてMOMに選ばれたのはモウンガ。納得である。

別格の強さを見せたオールブラックスが勝利。あらためてラグビーの世界での「格差」を実感する 【宇都宮徹壱】

 2日前のスコットランド対サモア(34-0)に続くワンサイドゲーム。しかしこの日のニュージーランドには、スコットランドをはるかにしのぐ完成度が感じられた。一方のカナダは、イタリア戦に続く敗戦。ポジション的にはティア2(中堅国)だが、世界ランキングでは22位で、今大会では23位のナミビアに次いで低い。現在のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは、1位がベルギーで22位がポーランド。サッカーの世界でなら、そこそこの試合が期待できそうだが、ラグビーでの1位と22位の格差は絶望的だ。

 大会前、なぜラグビーW杯の出場チーム数が20なのか、ずっと不思議に思っていた。あと4チーム増やせば、日程の有利・不利も解消できるのに、とも思っていた。しかし今回のゲームを見て、実は20チームというのは絶妙な数字であるように思えてくる。ティア3(途上国)のチームまで出場したら、ティア1のチームに3桁失点を食らう可能性も十分にあり得るだろう。強豪国の予選免除も含めて、ラグビーにはラグビーなりの理(ことわり)がある。それを示したのが、大分でのオールブラックスであった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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