新境地に達した中村剛也の存在感 パV2の西武打線に与えた大きな意味

中島大輔

中村の変化に刺激を受けた山川

7番へと打順を下げた山川だが、8月は25打点を挙げ、ポイントゲッターになった(写真は9月11日のソフトバンク戦) 【写真は共同】

 こうした中村の変化に大きな刺激を受けたのが、誰より中村に憧れ、背中を追いかけてきた山川だった。8月30日からのソフトバンクとの天王山3連戦の2戦目、今季40号を含む2本塁打以上に「価値がある」と振り返ったのが、3回、8番・木村文紀の犠牲フライにつなげたライト前安打だった。

「あそこは小さく振ろうと思っていました。それまで中村さんを見ていた影響です。イケイケのときはガンガン、ホームラン狙いでいいと思うんです。実際、そういうときってホームランを打てますし。ただ今年6、7月に状態が悪くなったとき、それではボールに当たらなかった時期があって。そういうときにああいうライト前ヒットでつないでおけば、気持ちと打率もつなげます。それをここまで気づけなかったというか、できなかった」

 毎朝起きると、まずホームランのことを考えてきたという山川だが、残り40試合を切った頃から「どれだけ万全の状態でできるか」だけを求めるようになった。結果、8月には4月に次いで多い25打点を挙げ、上位打線の走者を還すポイントゲッターになった。

MVP級の評価

 山川や中村が打撃スタイルをアップデートするなか、「自分のこと」を考えて持ち味を発揮したのが森と外崎修汰だ。今季、正捕手として1シーズン守り抜いた森は、打撃好調の秘訣(ひけつ)を夏場にこう語っている。

「守りと攻撃は別だと思っています。守りがうまくいっている、いっていない関係なしに、打撃は打撃で大切にしている。そこのメリハリをしっかりしていることが、良い結果につながっていると思います」

 対して8月以降、中村の後の5番や6番に入った外崎はこう話した。

「中村さんのような(素直に打ち返す)バッティングができたら、打率3割打てるんじゃないかと思います。マネしようと思っても、できるものではないので。僕はしっかり自分のバッティングをしようと思っています」

 森は捕手として史上4人目の首位打者を争い、外崎は打率2割7分3厘、26本塁打、90打点、22盗塁と大きく成長した姿を見せた。2人が「自分のこと」を考えて飛躍した裏で、決して本調子のシーズンでなかった秋山と栗山は各々の仕事を果たしてチームを勝利に導いた。秋山はリードオフマンとしてリーグトップの179安打を放ち、チームの多くの得点につなげている。栗山は4月28日のオリックス戦で勝ち越しタイムリーを放つなど、要所で勝負強い活躍が光った。

 新旧キャプテンの2人に加え、決して口数の多くないもう一人のリーダー、中村はバットですべてを語った。小さい頃から本塁打を打つ練習を重ね、「ホームランを打つ=自分のスイングをするとなっている」と7月に通算400号を放った直後に話した男が、時にヒット狙いでチームの勝利に貢献した。

 おそらく今季の年間MVPは、8月から3番に入った森だろう。捕手としての貢献を含め、異論を挟む者はいないはずだ。ただし、中村の貢献も同等の評価に値する。前半戦は下位打線、後半戦は定位置だった4番に座り、リーグで誰より打点を稼いだ。中村が新たな打撃スタイルを見つけることがなければ、チームのリーグ連覇はなかったと言っても過言ではない。自分自身の好成績だけでなく、山川に影響を与えたことは、今後の西武にとって大きな意味がある。

「何年か一緒にやって見てきましたけど、今のスタイルのほうが凄みを感じます」

 阿部打撃コーチは、本塁打だけでなく、チャンスで技ありのライト前タイムリーを放つ姿をそう評した。36歳で新境地に達した中村剛也が、改めて大きな存在感を見せたシーズンだった。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント