社会人ドラフト候補、2019年の注目株は? 高卒3年目のエースに逸材集まる

楊順行

若獅子賞獲得の大器が解禁年へ

強豪JR東日本で1年目から投げてきた太田。190センチの長身から投げ下ろすパワーピッチャーで、落ちる変化球を軸にゴロの山を築く 【写真は共同】

 太田龍も、強豪・JR東日本で1年目から登板している大器だ。

 鹿児島・れいめい高時代から、190センチの角度のあるストレートは注目されていたが、「変化球を含めた制球力と投球術を磨こう」と社会人へ。2年目の昨年から早くも先発の一角を担い、都市対抗の新人賞にあたる若獅子賞を獲得している。

 今年の都市対抗でもヤマハ戦で先発。6回途中1失点と、試合をつくる能力を見せた。最速153キロのパワーピッチャーで、落ちる変化球でゴロを打たせるのも巧みだ。田嶋大樹(オリックス)の古巣であるJR東日本ではほかに、左腕・山口裕次郎(履正社高出)、西田光汰(大体大浪商高出)も高卒3年目の逸材だ。

 ひょっとすると……の高卒3年目がもうひとり、三菱横浜パワーシステムズ(MHPS)の左腕・浜屋将太

 鹿児島・樟南高時代の2016年夏、甲子園では花咲徳栄高との2回戦で敗れたものの、途中まで高橋昂也(広島)と互角の投手戦を演じている。最速148キロとはいえ、身長が175センチだからすごみはない。それでも、MHPSでは1年目から公式戦に登板し、2年目の昨年は奥村政稔(福岡ソフトバンク)と並ぶチーム最多の10試合に先発。飛躍の理由は、「変化球の出し入れや、自分のリズムでタイミングを外すことだった」と浜屋は言う。

 持ち球はスライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップで、鹿児島の高校出身の左腕、さらに体格も杉内俊哉(巨人ファーム投手コーチ)にだぶる。また育った鹿児島県大崎町はソフトボールの盛んな土地で、自身もプレーした大崎ソフトボールスポーツ少年団のOBには、福留孝介(阪神)のほかにも、榎田大樹(埼玉西武)・宏樹(日本新薬)兄弟という好左腕がいる。

 今年は、都市対抗でも初登板。敗れはしたものの、救援したトヨタ自動車戦は打者5人から4三振で「立野、同じ鹿児島出身の太田ら、同じ学年にドラフト候補がいるから刺激になっています」とアピールした。

一塁挑戦中の「ぽっちゃりスラッガー」

 一方、野手では、大阪ガスで近本光司(阪神)の抜けた穴を埋める俊足巧打の小深田大翔らが注目株に挙がる。そして、山川穂高や中村剛也(ともに西武)あたりを思い起こさせるぽっちゃりスラッガーが、パナソニックの片山勢三だ。

 176センチ、105キロ。九州共立大から社会人入りした昨年の春先は四番に定着。都市対抗初戦では不振でスタメンから外れながら、代打本塁打という派手なデビュー。シーズンの対象公式戦で6本塁打は、本塁打王の岡崎啓介(日立製作所)に並び、打率.414も4位でベストナイン(指名打者部門)を獲得した。

 こうなると、「安定しているから」社会人野球を選択した片山にも、にわかに欲が出てきた。「目指すのは、プロの上位指名。ただ、それには守備が課題」と今季は、一塁守備にも挑戦している。高校時代は捕手で、ショートバウンドの処理には自信があるとか。今季もすでに、公式戦で4本塁打している片山は言う。

「山川さんや中村さんの存在は、プロを目指す上での励みになります。参考にしているのは、中村さんの柔らかさ。あの右手の使い方、力まないスイングが理想です」

 個人的に、ひそかに注目しているのが日本生命の伊藤ヴィットルだ。ブラジル出身で、兄がかつて在籍した本庄第一高に来日し、共栄大を経て社会人入りした昨年は、日本選手権で打率.636を記録した。身体能力の高い遊撃手で、大学時代にはブラジル代表としてワールド・ベースボール・クラシックにも出場とキャリアは十分。

「学生時代に観戦した都市対抗は、ブラジルのサッカースタジアムのような雰囲気でした。ブラジル野球は個を優先しがちですが、チームでプレーする日本の野球は勝ったときの楽しさが違います」。日本生命入社時に、来日してから覚えたという滑らかな日本語で話してくれたことを思い出す。

 ドラフトは10月17日。森下暢仁(明治大)に加え、佐々木朗希(大船渡高)や奥川恭伸(星稜高)らの“高校四天王”もいいけれど、社会人のドラフト候補も注目ですよ。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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