大迫は東京マラソンに出場すべきか? 「代表ラスト1枠」の設定が超難問
3位の大迫は東京マラソンに出場するのか
得意なはずのレース展開で競り負けた大迫(左)。八木氏は本調子ではなかったのではと見る 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
大迫選手はレース後のコメントで「力負け」と語っていましたが、僕はそうは思いません。今回のレース展開や流れなら、大迫選手の能力であれば十分勝てるレースだったはずです。
そうならなかったのは、前半の10キロ、中間点までの時点で調子が良くないように見受けられました。(途中棄権した)今年3月の東京マラソン、そして今回と調子を合わせられていないことが気になります。その理由が明確で、改善できる見込みがあれば問題ないのですが、そうではないのであれば難しいのかもしれません。
僕は、男子のMGCに出場した30選手で一番“粘った”のは大迫選手だと思っています。それぐらい前半の消耗度合いが大きくて、それでも脱落せず最後まで先頭争いをしていたので、粘らなければいけないタイミングが多かったのではないでしょうか。
ーー自身の持つ日本記録を更新されると、五輪代表から漏れることになります。記録更新が狙える東京マラソンに出場するか、五輪へ万全の調整を期すのか、注目されます。
東京マラソンには今回見せ場を作った歴代2位の記録を持つ設楽選手、4強と目されていた井上大仁選手(MHPS)など、スピードランナーが集まりそうです。村山謙太選手(旭化成)もSNSで出場を表明しました。
東京マラソンでは1キロ2分57秒とか、日本記録を上回る設定でペースメーカーが走るはずです。それについていける選手、例えば佐藤悠基さん(日清食品グループ)などはみんな挑戦すると思います。
大迫選手が出ずに日本新が生まれれば「なにもせずに代表権を逃した」となりますし、出場して自分で日本記録を更新すれば代表権を確定できるので、もし仮に負けても納得できるのだと思います。
ーーなるほど。
ただ僕が大迫選手なら……出ずに待ちますね。日本記録を持っているのが自分自身なので、それを超えられたなら仕方ないのかなと。それ以外の選手だったら話は別なのですが。
日本記録が出るには、当日の絶好の気象条件、絶好のレース展開、そして選手本人の絶好調、この全てがそろう必要があります。自力以外の要素も絡んでくるこれらをそろえることがまず難しいですし、条件がそろったとしても、そのなかで日本新記録が出る確率はとても低いわけです。ただポテンシャルとして設楽選手があり得る、というのは大迫選手自身も分かっていると思うので、難しい判断になるのですが。
大迫選手は五輪で戦える選手だと思います。なので本番に向けて、気になっている調整だったり、それ以外のステップアップに時間を使ってほしいです。
周りの声は気にせず、納得できる判断を
戦略としてはありだと思います。問題は、気象条件が良ければ30キロ過ぎまでは日本記録更新ペースで進む可能性が高いので、その場合棄権の判断をするまでに一定のダメージを受けること。そして、周りがどう言うかということです。ワールドマラソンメジャーズである東京マラソンでそのような使い方をすると、外野から批判を受けることは覚悟しないといけません。
別の可能性もあります。東京マラソンに挑戦したとして、大迫選手が調子整わず下位に沈み、設楽選手が優勝しながらも設定タイムにわずかに届かなかったとします。ルールなので大迫選手の代表権が確定するわけですが、本当にそれでいいのか、という議論は起こるでしょう。
男子においては最後の1枠のルールが状況を難しくさせていると言えます。女子の設定タイムであればファイナルチャレンジで3枠目は決まりかな、と思いますが、男子の設定タイムは日本記録更新ですからね。
本当に難しくて、答えはないです。前例もありません。どのような判断をして、どういう結果が出たとしても、外野の声は気にせずに、本人がもっとも納得する判断をしてもらいたいと思います。
(取材・構成:藤田大豪/スポーツナビ)