MGCのレース展開はどうなる? 仕掛けるタイミング、4強の反応に注目

折山淑美

仕掛けの可能性を持ったベテラン勢

16回目のマラソンに挑む今井。経験を武器に4強を脅かす走りを見せられるか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 そんな可能性を持ったひとりに、今井正人(トヨタ自動車九州)がいる。35歳の彼にとっては競技生活の集大成とも言える挑戦。これまでのマラソン経験は15回で、記録的には全盛時の2時間07分39秒の走りは厳しいとしても、遅いレースになるだろうだけに豊富な経験を生かした仕掛けはありうる。彼自身、髄膜炎になって出場はできなかったとはいえ、15年世界選手権出場のために夏場のマラソンへ向けた練習を経験していることは大きい。また上り坂に対しての自信も持っているだけに、早めに仕掛けても最後の坂をギリギリでクリアできる可能性も信じているだろう。

 また中本も12年ロンドン五輪と13年世界選手権では6位、5位という実績を持っているだけに、遅いマラソンになればどこかで浮上してくる可能性は持っている。さらに今井と同じようにラスト5キロの上りに自信を持っている選手たちも、集団で行ってしまえば最後は実力者にねじ伏せられるだろうとなれば、後半の暑さと最後の上り坂を味方にできる可能性にかけてくるはずだ。

 そんな状況になった時に、有力とみられる4人はどういう対応をするかも見どころだ。誰かが出た時に追いたいと思うか、必ず落ちてくるだろうと判断するか。4人が4人とも相手を警戒しなければいけないだけに、動ききれない可能性もある。そんなときにいい指針となるのが、自分のペースで淡々と走る設楽になるかもしれない。彼ならゴールまで走り切ると信じれば、他の3人は設楽について行って勝負所を待てばいい形になる。

 その中では暑熱対策をアジア大会で経験している井上が最初に仕掛けそうな感じもするが、順当に4人の上位争いになれば、最大の勝負所は最初の急な上り坂を上がり切った四谷4丁目の交差点から1キロ強の下り基調になる、外苑西通りになりそうだ。そうなれば無駄な動きはしなさそうな大迫が強さを発揮してきそうだ。

女子は超スローペース必至

10人で争われる女子のレース。終盤勝負となれば、トラックの経験が豊富な松田瑞生(左端)、鈴木亜由子(右端)が有利だろう 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 出場選手が10名と少ない女子は、かつての高橋尚子や野口みずきのような絶対的な力を持った選手がいないだけに、超スローペースになるのは必至だろう。そのまま最後まで集団で行ってラスト2〜3キロでの決着となれば、1万メートルでも実績のある松田瑞生(ダイハツ)と鈴木亜由子(日本郵政グループ)に分がある。だからといって他の選手たちも、中盤から仕掛けて逃げ切るまでの力は持っていないうえに、男子より15分遅いスタートで終盤の気温も上がっていると予想されるだけに、レースが動きだすのはかなり遅くなるだろう。

 そんな中でも早めに動いて優位な位置を確保したいのは、前田穂南(天満屋)と安藤友香(ワコール)、小原怜(天満屋)あたりか。彼女たちがジワジワ上り始める37キロ付近から仕掛けて後続を突き放せばそのまま逃げ切る可能性も生まれる。女子の場合はファイナルチャレンジ設定記録が2時間22分22秒と男子より可能性があるだけに、2位以内に入らなければいけないという思いは強い。そんな思いでどんな仕掛けができるかが見どころだ。

 ベテラン・福士加代子(ワコール)の動きも不気味だが、松田と鈴木は他の選手の仕掛けをどうしのいで40キロ過ぎからの下り勝負に持っていけるかだろう。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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