バスケ日本代表のW杯惨敗を徹底検証 東京五輪までに解消できる課題はどこだ?

大島和人

日本の特性を生かした「遅い」攻撃スタイル

「遅い」スタイルへの転換には、連係以上にハンドリング、バスケIQという個が欠けていた 【Getty Images】

 結果は出なかったが、ディレイド・オフェンス(長く時間をかける攻め)に寄った発想が間違いだったとは思わない。相手も跳んでいる中で無理やりレイアップを打てばブロックに遭う。フローターやジャンプショットは上を破りやすくても成功率が落ちる。

 半分以上のシュートが落ちることを考えれば、リバウンドやトランジション(切り替え)を意識した「攻撃の終わり方」が大切になる。実際に事前の強化試合で日本はじっくり攻める形がハマり、ドイツ戦の勝利をつかんだ。

 一方で本大会になれば相手DFの圧は上がる。日本はボールを動かし、ピック&ロールからスクリーンをかけても、やはりズレが作れなかった。相手に比べて速く正確にボールを動かせず、ハンドリングの「粗」も目立つ状態だった。先手を打ったパス回しができず、選手が迷い、ボールの動きが停滞する傾向が見て取れた。

 テンポを落としてゲームをコントロールしようとすれば、ポイントガードはもちろん、各選手のキープ力が不可欠となる。しかし日本はかなり長い時間にわたって相手DFの圧にあおられ安定したボール運び、パス回しができなかった。

 オープンショット、イージーショットを少しでも増やすことがバスケの必勝パターン。日本がそれを遂行できない理由は連係以上にハンドリング、バスケIQという個に帰結していた。「遅い」スタイルへの転換は実を結ばなかった。

唯一「個」で戦えた八村

ボールの動きが停滞した中でも、輝きを見せた八村 【Getty Images】

 個の向上は育成年代から取り組むべきものだ。チェストパス、レイアップのような基本が、米国レベルの相手になると危険なプレーになってしまう。

 必要なのは曲芸的な技術でなく、もっと実用的なうまさだ。ポイントガードの安藤誓哉(A東京)は対峙(たいじ)した相手の感想を求められて、「クイックネスが高いというより、無駄が少ない」と説明していた。次世代に向けた「世界で戦う上で必要な技術はなにか」という洗い出しと、整理が必要になる。

 協会もトップまでの一貫指導を目指すエンデバー制度、長身選手育成に特化した「ジュニアユースアカデミーキャンプ」などの取り組みを既に行っている。そういった事業の拡充に加えて、クラブチームも含めた草の根との連携が必要だ。

 ただし八村に限れば「個」の見劣りはない。ボールの動きが停滞した中でも、マークを受けた状態からでも決められる唯一の選手だった。ステップバックから放つミドルジャンパーは彼の十八番でトルコ戦は15得点、チェコ戦は21得点と一定のスタッツを残している。そもそも八村の特性があったからこそ、フリオ・ラマスHCはディレイド気味のオフェンスを採用したのだろう。

 一方で米国戦の八村は4得点にとどまった。本人はメディアに対して弱音を全く吐かなかったが、コンデイション的に万全と言える状態ではなかったことは間違いない。中1日で30分以上のプレータイムを任され、誰よりも強烈なマークを背負う21歳の青年は、他の誰よりも大きな負担を抱えていた。そして米国戦後の離脱により「一人分以上」のダメージがチームに及んだ。

「中を固める」守備で臨んだ日本だったが……

日本が世界レベルで戦う上での不足は多い。東京五輪までに解消できるテーマの見極めが重要だ 【Getty Images】

 守備面を見ると日本は大会前から「シュリンク(収縮)して守る」形を徹底していた。ゴールへの防御、リバウンドが弱みとなるチームにとって「まず中を固める」ことは定石と言っていい。

 しかし「内」を重視すれば、「外」はおろそかになりやすい。それでもコンマ何秒か外への動き出しを速くできれば、相手のシュート確率を落とすことができる。日本は相手の配置、ボールの持ち方、重心や目線を見て「狙い」を察知する判断力が認められる守備戦術を採用していた。

 ただそれを40分間常に遂行し続けることは容易でない。また世界レベルの代表チームに「シュートだけ」という選手はいない。外の防御に絞りすぎると別方向へのパス、ドライブと「二の矢」が飛んでくる。例えば日本戦で27点を決めたニュージーランドのコーリー・ウェブスターはシュート力に加えて強さもある難敵。DFが重心を浮かせれば、ゴール下へのドライブで打開していた。

 どの競技でも戦術は「個」という前提条件から決定される。八村がチームにいたときは「相手にドライブさせて中で潰す」対応が有効だった。彼はゴール下で振り切られず、シュートを上からたたき落とせる異能の持ち主だからだ。だからこそ八村の離脱は攻守両面でチームに付け焼き刃の戦術変更を強いた。攻撃も速く攻め切る、打ち合うしか手が無くなった。

 2次ラウンドの初戦。日本は「ラン&ガン」の高速スタイルが根付いているニュージーランドの土俵で戦い、81-111で完敗した。内外と振り回され、3Pシュートも54.5%の高確率で決められた。加えてペイントエリアから38得点(成功率68%)を喫したスタッツから分かるように、ゴール下からイージーショットを打たれすぎた。

 外を封じようとすれば中がおろそかになり、中を固めれば外が空く――。相手に主導権を持たれた日本は、そのような悪循環から抜け出せなかった。

 スキル、相手のプレーを読む判断力、フィジカルと日本がこのレベルで戦う上での不足は多い。しかしこの大会に出なければ、生々しい学びは得られなかった。選手やわれわれが感じた悔しさも、うまく使えば前進のエネルギーになる。15年以降の改革により、協会が強化に注ぐリソースも増えている。20年の東京五輪までに解消できるテーマ、次世代に引き継ぐテーマを冷静に見極めて整理し、日本一丸で地道に取り組み続けるしかない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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