W杯予選初戦に平常心で臨む日本代表 ミャンマー戦でのネガティブ要素とは?

宇都宮徹壱

経済発展の可能性を秘めた国、ミャンマー

試合会場のトゥワンナ・スタジアムに入る日本代表。現地の湿気のためレンズが曇ってしまった 【宇都宮徹壱】

 ミャンマー最大の都市、ヤンゴンに到着したのは、ワールドカップ(W杯)・アジア2次予選の3日前となる9月7日の夜であった。この国を訪れるのは初めてだったが、アライバルビザを受け取って入国を済ませ、現地通貨とSIMカードを入手するまで拍子抜けするくらいスムーズ。かつて英国の植民地だった影響からか、英語もよく通じる。3カ月前にコパ・アメリカの取材で訪れたブラジルでは、ちょっとした手続きでいちいち苦労を強いられていたが、ここミャンマーは意外と過ごしやすそうで少し安堵した。

 いささか閉口するのが、現地の気候である。おりしもミャンマーは、雨季の終盤。ようやく土砂降りがやんだと思ったら、恐ろしく蒸し暑くなることの繰り返しである。加えて当地の雨量は、東南アジア諸国でも飛び抜けていると言われ、バンコクやホーチミンの最多雨量が300ミリ台なのに対し、ヤンゴンは倍の600ミリを超える年もあるという。多少の蒸し暑さは慣れている日本代表も、突然のスコールには戸惑うかもしれない。いきなりピッチが水浸しになったときに、どこまで状況に即したサッカーができるかがカギとなりそうだ。

 さてミャンマーといえば、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも「経済発展の可能性を秘めた国」として、近年はカンボジアと並んで注目されている。当地に6年暮らしているという日本人ビジネスマンに、最も変わったことは何ですかと尋ねると「何といってもインターネット環境ですね」と、即座に答えが返ってきた。私が投宿しているホテルでは何不自由なく無線LANを使用できているが、ヤンゴンで働く外資系ビジネスマンが「ネットが遅くて仕事にならない!」と口をそろえて嘆く時代が、ほんの数年前まであったのである。

「僕がこっちに来た頃は、メールを開くのにも15分くらいかかりましたね。添付ファイルも2メガ以上だと厳しい(苦笑)。街中で普通にネットが使えるようになったのは4年前からですね。外資の携帯電話会社が参入して、3G通信をするようになったのがきっかけでした。そこから劇的に環境が変わりましたよ。携帯の普及率も、6年前は10%に満たなかったのが、今ではほぼ100%。携帯普及のスピードは、おそらく世界一でしょうね」

パラグアイ戦が日本にもたらすアドバンテージ

ミャンマー戦を2日後に控えた日本代表。選手の表情は一様にリラックスしているように見える 【宇都宮徹壱】

 経済の発展は、その国のサッカーの発展にも少なからず寄与する。ここ数年のミャンマー代表のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングの推移を調べてみると、2013年の130位をピークに159位にまで順位を落とし、その後、再び上昇傾向を見せて現在(19年7月25日発表)は135位(日本は33位)。アジアでは26番目というポジションだ。しかし5日前、2次予選初戦、モンゴル(187位)とのアウェー戦では0-1と不覚を取り、しかも主力選手のマウン・マウン・ルウィンが退場。もちろん油断は禁物だが、日本にとってはかなり有利な状況と言ってよいだろう。

 そんな状況を反映してか、試合2日前の日本代表のミックスゾーンでは、初戦の難しさに関する質問が相次いだ。「そんなに独特の雰囲気はない。いつもと変わらないです」と語るのは大迫勇也。点が入らずにイライラした展開が続く可能性を尋ねられると「サッカーではあり得ること。そこをどうチームとして対処していくかが大事なので。時間は90分あるので、慌てずにしっかり臨めればと思う」と、まったく気にする様子もない。さすがにW杯を2大会経験している、ベテランの余裕が感じられる。

 では、初めてW杯予選を戦う若手の場合はどうか。堂安律は「いろいろ考えると湧き出てくるものもあります。でも、僕が背負うことを先輩たちは求めていないでしょうし、むしろ若手らしいプレーが期待されていると思う」とコメント。冨安健洋も「(状況によっては)現実的なサッカーをすることも必要だと思うし、そこはチームとしての意思統一が大切だと思う。難しい部分ももちろんありますけれど、僕はいつもどおりに近い感覚で臨めればいいと思います」と平常心を強調した。

 前回のアジア2次予選の初戦では、ホームでシンガポールに0-0という結果に終わった日本。どれだけW杯の出場回数を重ねても、初戦特有の緊張感はいつも新鮮だ。それでも今回の場合、日本は第1節をパラグアイとの親善試合に充てることができた。2-0というスコアで勝利したこと以上に、チームが温まった状態で初戦に臨めるアドバンテージは計りしれない。東南アジア特有のピッチコンディションと湿度、そして突然のスコールといった多少のネガティブ要因はあるだろう。それでも今回のミャンマー戦は、よほどのことがない限り順当な結果に終わるはずだ。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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