日本バスケ、必然の完敗 成長サイクルをサッカー界のように回せ

大島和人

最高のタイミングで味わった世界の壁

史上最強と呼ばれた日本代表も、ヨーロッパ勢からの初勝利には届かなかった 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 日本にとって通算5度目のFIBAバスケットボールワールドカップ(W杯、2010年までは世界選手権)を、多くのファンは初出場に近い感覚で迎えたのではないだろうか?

 Bリーグが16年に開幕し、バスケットボールへの関心や認知度は大幅に高まった。加えて19年のW杯中国大会からW杯予選がセントラル開催からホーム&アウェー方式に変更され、出場チームも24から32に拡大された。今までない数のバスケファンが海を渡り、メディアも百人単位で開催地の上海に駆けつけていた。

 チームは八村塁(ワシントン・ウィザーズ)、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)という二人の現役NBAプレーヤーを擁している。そして来年には自国開催の五輪がある。日本代表が最高のタイミングで迎えた、フレッシュな晴れ舞台だった。

 ただ世界の壁は厚く高かった。チームは0勝3敗で1次ラウンドを終えている。初戦のトルコ戦を67−86で落とすと、第2戦もチェコに76−89と敗戦。第3戦の米国戦は45−98の完敗だった。

 直近の世界ランキングを見れば日本は48位。トルコが17位、チェコが24位、米国が1位という数字を見比べれば分かるように、純然たるチャレンジャーだった。

 8月24日の強化試合でドイツ(同22位)を下すなど、「ヨーロッパの一角を食える」と期待させる材料がなかったわけではない。しかし日本はランキング相応の結果で3試合を終え、17位以下の下位グループへ進むことになった。

格上による「想定以上の先回り」に打つ手なし

トルコの日本対策、特に八村封じは鮮やかだった 【写真:ロイター/アフロ】

 トルコ戦の敗因は「出だし」だった。直前の親善試合で機能していた八村を生かすセットプレーを、トルコは鮮やかにつぶした。日本は立ち上がりのオフェンスでシュート前にボールを失うシーンが相次ぎ、12-28で第1クォーター(Q)を落とした。馬場雄大(アルバルク東京)はこう振り返る。

「あのディフェンスを崩せればと思ったけれど、最後まで崩せず、ズルズルいってしまった。(八村)塁も今までにないディフェンスだったので状況判断を上手くできず、頼るところなしという感じだった」

 もちろんセットプレーと言っても、相手の出方に応じたプランBのオプションはあったはずだ。ただトルコは「想定以上の先回り」をして重要なオプションをつぶし、日本は対応できなかった。八村へのディナイ(パスを出させない動き)も当然ながら執拗(しつよう)だった。

 15得点にとどまった八村は試合の翌日にこう振り返っていた。
「明らかに僕の得意なショットを打たせない狙いでディフェンスをしてきて、その通りにさせられた」

 結果は19点差の完敗だった。とはいえトルコは3日の米国戦でオーバータイム(延長戦)の激闘を演じた強豪。W杯は東京五輪予選も兼ねており、激戦区のヨーロッパ勢は今大会へのモチベーションも高い。代表の現在地として、フェアな結果だった。

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世界での戦い方は、世界でしか学べない

NBAプレーヤー、サトランスキー(右)擁するチェコに追いすがるも、白星は遠かった 【Getty Images】

 3日のチェコ戦は第1Qを18-18で終え、前半終了時点のスコアも40-45。日本が「ついていく」展開だった。八村も厳しいマークを受けながらしっかりスコアを挙げていた。また八村が相手を引きつけて生まれるスペースを生かして渡邊、馬場らが積極的にゴール下に切れ込んでいた。

 しかし前半は機能していたパス回しに後半は圧力を掛けられ、もうひと押しができなかった。フリースローも18本中成功8本と、通常では考えられない成功率の低さだった。

 チェコのスタッツを見ればブレーク・シルプに6本、ヤロミール・ボハーチックに4本と大量の3ポイントシュートを決められたことが敗因だ。これはNBAプレーヤーでポイントガード(PG)を務めるトーマス・サトランスキーのケアに割いた労力が背景にある。

 日本のPG・篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)はチェコ戦後にこう述べている。

「(サトランスキーを)カバーして、それでももう一回シューターのところに戻ってチェックする動きを、止めずに遂行しなければいけなかった。クローズアウト(間合いを詰める動き)のスピード、収縮の判断の精度が、まだまだ足りなかったところは感じます。誰かがドライブを仕掛けてきたとき、リングまで向かおうとしているのか、パスをさばくのかという予測、駆け引きも含めて判断力が足りなかった」

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 チェコは16年のリオデジャネイロ五輪世界最終予選で対戦し、71-87で敗れている相手だ。3年前にもコートに立っていた渡邊はこう口にする。「当然あのときよりはできている感覚があるけれど、やっぱり負けるのは悔しい。チェコが格上なのは間違いないけれど、勝てない相手ではなかった」。

 今の日本がベストゲームをやり切れれば、勝てた相手かもしれない。とはいえ結果的にチェコは5日にトルコを下してベスト16に進んだチームで、決して「不思議の負け」ではなかった。簡単に言えば経験、引き出しの差なのだろう。34歳の竹内譲次(アルバルク東京)はこう述べていた。

「こういう場でのパフォーマンスの出し方は、こういう場でしか学べない。経験という意味では(渡邊)雄太とか(八村)塁のほうが豊富」

 そうはいっても渡邊のNBA経験は15試合で、八村はまだ1試合もプレーしていないルーキー。米国はもちろんだが、トルコやチェコにもNBAで経験を積んだ主力級がいた。経験とはキャリアの濃さと長さを掛け合わせたもので、日本の選手もNCAAやNBA、ユーロリーグのような場に打って出てキャリアの濃度を上げるしかない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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