連載:僕しか知らない星野仙一

「巨人憎し」の感情だけではない――星野さんが巨人戦で燃えた理由

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第7回

巨人からの勝ち星が歴代6位となる35勝の星野さん(写真右端)。王さん(同左端)には打率3割1分8厘と打たれたが、長嶋さんは打率2割3分4厘と抑えた 【写真は共同】

 巨人を袖にされた男が、巨人を相手に快刀乱麻のピッチングを魅せる――権力者に立ち向かう一大衆として、星野仙一さんを持ち上げようとしたマスコミは多いが、巨人戦になると燃えるのは、僕もよくわかる。おそらく阪神に入っていなかったら、僕もそうした心情を知りえなかったかもしれない。

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 巨人戦と他のセ・リーグ4球団との違いは二つある。一つは「選手以上に周りが盛り上がること」、もう一つは「お客さんがたくさん入ること」だ。

 まず一つ目についてだが、阪神時代にこんなことがあった。
 ローテーションの順番からいって、次の巨人三連戦で僕の出番が回ってくることがわかったとき、大阪で僕のことを応援してくれている会社の社長さんが突然やってきて、
「江本君、次回の巨人戦で登板するときには、この車を乗っていきなさい」
 と言って、ロールス・ロイスのキーを渡してくれた。僕は光栄に思いつつも、
「お気持ちにはたいへん感謝しています。でも、これは社長さんが仕事で使用される大切な車です。おいそれと僕ごときが乗るわけにはいきません」
 そう丁寧に断ろうとすると、その社長さんも一歩も引かずにこう反論した。
「何を言っているんだ江本君! このくらいの車、長嶋(茂雄)や王(貞治)だって乗っているんだぞ! たかが車と思うかもしれないが、されど車なんだ。国産車で球場に行ってはイカン。遠慮せずに乗っていきたまえ」

 そこまで言ってくれたのだが、社長さんにはやはり断った。だが、僕以外の選手も同じような状況で、普段は国産の車に乗っていたにも関わらず、巨人戦になった途端、黒塗りのベンツに乗ってくるのだ。

 これに驚いたのが阪神の球団関係者だ。普段、見たこともない車が甲子園の関係者専用の駐車場に止まるなり、その選手が降りてくると、
「どうしたんだ、その車!?」
「まさかローンで買ったのか? ずいぶん無理したんじゃないのか!」
 などとあらぬ声が飛び交っていた。その選手は全員に事情を話すのが面倒だったので、近しい関係者だけに話して球場入りしたというのだが、ウワサは選手間でも広がっていた。

「ロールス・ロイスに乗ってきたのなら、王さんを抑えられるかもしれないな」

 冗談とも本気ともつかぬ声があったのには、僕もただただ苦笑いするしかなかった。
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