クラス分けで訪れた「東京で金」の好機 全盲のスイマー富田宇宙が伝えたいこと

吉田直人

新たな試みで成長をつかむ

現在は国立スポーツ科学センター(JISS)にこもって、個人合宿を敢行。さらなる成長を遂げるためには必要なことだと、本人は語る 【写真:吉田直人】

 現在、日本体育大学の大学院でコーチング学の研究を行う富田は、以前は同大学の水泳部で主にトレーニングを行っていた。1日に約16キロも泳ぐこともあるハードな環境が、富田をより強くした要因の一つだろう。しかし、彼は今、新たな試みを始めている。

「国立スポーツ科学センター(JISS)にこもって、個人合宿をしています。大学の部活というハイレベルな環境も良かったのですが、ロープをたどって泳ぐ時の効率性を追求するトレーニングは、集団の中ではなかなかできない。1人で1レーンを使うことで、全盲の状態で泳ぐということに、これまで以上に焦点をあてて練習に取り組んでいます」

 その上で課題になってくるのは「水をかく時の出力の最大化」だという。後天的に全盲となった富田の課題は、自身の泳ぎに制限がかかってしまうこと。出力を上げることは課題の解消にもなりうる。

「つかむ水の量が少ないので、出力が弱くなっています。水を捉える“キャッチ”という動作の時に、肘の動きの癖で水が逃げてしまっている。それを矯正しているところです。また、水をつかんだあとにしっかり出力に転換できるように、全身を使ったストロークを意識しています。“全身で水を押す”というイメージですね」

競技を通して、本当の魅力を伝えたい

収録に参加した武井壮さん(左)、立石諒さん(右)と記念撮影。富田は自らの泳ぎを通じて、パラリンピック競技の本当の素晴らしさや魅力を伝えたいと意気込む 【写真:吉田直人】

 自身の泳ぎに関して「いくらでも修正の余地がある」と富田は言う。裏を返せばそれだけ伸びしろがあるということだが、「楽しいというより苦しいことのほうが多い」という。

「改善点が分かっていても、全力で泳ぐ時の癖を直すというのは、すごく難しいことなんです。練習も相当キツいですし、エンジョイしているわけではありません(笑)」

 ただ、と富田は続ける。

「自分の中の基準では、“障がい者の中での水泳”とは捉えていません。競泳という競技全体を見た時に、いち競技者としての自分にはまだまだできることがある、ということです。改善の余地がはっきりと見えているからこそ、より記録を伸ばしていく上で、それは大切な気付きだと考えています」

 東京パラリンピックでの金メダル獲得を目標に掲げている富田。決して楽しいとは言えない鍛錬の日々に向き合うのは、自身の競技を通じて伝えたいことがあるためでもある。

「例えば僕が、何も見えない中を泳いで『すごい』と言われる。それは、本当に表面的な部分なんです。パラスポーツの選手たちには、人それぞれ、裏側にものすごい深みがある。彼らはゼロから出発したわけではなく、マイナスからゼロまでの歩みもあるわけです。そこには、オリンピック選手と変わらないか、それ以上に長い道のりがある。そこに、パラリンピックの本当の素晴らしさや、選手の魅力が詰まっているんです。自分の競技を通じて、そういったものをより広く伝えることができればと思っています」
◆◆◆ NHK番組情報 ◆◆◆
■8月30日(金)11:05〜11:54 「ひるまえ ほっと」
「百獣の王」武井壮さんがパラスポーツを体験、トップアスリートとの真剣勝負に挑みます。今回は「パラ競泳」に挑戦! 戦いの結果は……。どうぞお楽しみに!

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著者プロフィール

1989年千葉県生まれ。大学時代は学内のスポーツ機関紙記者として、箱根駅伝やインターカレッジを始め各競技を取材。2016年、勤務先の広告代理店を退職後、フリーランスライターとしてスポーツを中心に取材を行っている。

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